メゾン・エ・オブジェ・パリ展
少し先の暮らしを彩る、自然な色合い

▲デザイン・ダイアローグ メゾン・エ・オブジェ・パリ展 第2部「What’s New?(ワッツ・ニュー)」よりハイライト

2022年3月3日から3月21日まで日本橋高島屋で開催されていた、「デザイン・ダイアローグ メゾン・エ・オブジェ・パリ展」へ足を運びました。

本展はメゾン・エ・オブジェ・パリ展を主催するSAFI企画監修のもと、世界のインテリアデザインのトレンドを牽引するトレードショーを編集した展覧会です。今回はインテリアデザインを通してみえてきた素材や色、感じたことについてご紹介したいと思います。

▲左:日本橋高島屋入口にて Kartell/A.Iダイニングチェア 右:1955年「ル・コルビュジエ、レジェ、ペリアン三人展」より タペストリー、スツール、シェーズ・ロング

会場の構成は3部から成り、第1部はその年に世界で最も活躍し、その年代を特徴づけたデザイナーを選出する、「DESIGNER OF THE YEAR(デザイナー・オブ・ザ・イヤー)」エリアです。メゾン・エ・オブジェのキュレーターであるフランソワ・ルブラン・ディ・シシリア氏が選定した、歴代21名のデザイナーによる椅子と照明の代表作が年代順に展示されていました。

▲第1部「DESIGNER OF THE YEAR(デザイナー・オブ・ザ・イヤー)」より抜粋
上段左より:1990年Paola Navone/2004年India Mahdavi/2007年Konstantin Grcic/2011年Ronan&Erwan Bouroullec
下段左より:2012年Tokujin Yoshioka/2014年Philippe Nigro/2019年Sebastian Herkner/2022年Franklin Azzi
・金属、生地、石や木などの自然素材、プラスチックやガラスなど使用されている素材は様々です。究極にシンプルに、または緻密で複雑にデザインされたフォルムなど、珠玉のデザイン空間が広がるエリアです。

第1部の会場ではデザイナーがコンセプトとして大切にしたい要素や、環境の中で培われてきた美意識を感じることができます。

各ブースはデザイナー・椅子・照明のイメージをもとに配色構成され、壁紙も要素を感じられる自然素材やグラフィックデザインを施したものとなっていました。インテリアショップでも、これほど名だたる著名デザイナーのクリエイション作品は一堂に見ることはできません。

実物の作品を間近に見ることができ眼福を得たと共に、メゾン・エ・オブジェが歩んできた時代を時系列で散策できるような充実した展示エリアでした。

続いて、第2部「What’s New?(ワッツ・ニュー)」は最も興味深かったエリアです。ここではライフスタイルやデザインのトレンド分析に基づいたテーマが設けられ、今回のテーマは「Elements of Nature(自然の要素)」でした。気候問題と新型コロナの危機で人々が感じた、「癒しを求め自然と再び繋がること」を3つのエリアで、デザインインスピレーションとして提案しています。

エリザベス・ルリッシュ氏をはじめとしたインテリア・スタイリスト、トレンドセッターたちが、パリの出展製品から最新の生活デザインを表現するプロダクトを200点ほどセレクトし、空間デザインのインスタレーションと共に紹介されていました。

▲上:「Essential Nature(本質的自然)」エリアより抜粋
下段左より:NICOLA TESSARI花瓶/SILVER SENTIMENTI花瓶・プレート/BOLIAアームチェア
自然界でそのまま自然創造されたようなデザイン、あえて未完成のようなフォルム、革を陶器の一部のように編み込んだ不思議な感覚を覚えるプロダクト、使用経年で表情変化するヌメ革など。

「Essential Nature(本質的自然)」エリアでは、異国情緒ある広大な背景のなかに全体の色構成が天然素材や工芸品を思わせるベージュやブラウンの暖色系で統一されており、人の営みを思わせる空間となっていました。伝統工芸の職人技術が随所に散りばめられており、手間暇をかけた仕事量を感じさせます。

天然素材の持つ素朴な表情や色合いの美しさ、自然にできあがったような不均一さのあるデザインが多数ありました。自然の美しい色から使用経年で変化していくようなイメージを掻き立てられるプロダクトが印象的で、穏やかな雰囲気に癒されます。

▲上段: 「Contemplative Nature(瞑想的自然)」エリアより抜粋
下段左より:JULIEN LAGUESTEサイドテーブル/MARTINE MIKAELOFFボウル/GUAXS花瓶

「Contemplative Nature(瞑想的自然)」エリアでは全体的に寒色系やホワイトで構成されており、海や水をイメージさせるブルーとブルーグリーンが特徴的でした。

加えて、軽やかさ・流動性・透明感を感じるガラス素材や、珊瑚のような陶器素材が多数ありました。特に印象的だったのはJULIEN LAGUESTEのサイドテーブルとMARTINE MIKAELOFFのボウルです。

まるで上空から見た海の深みと積層を感じる美しいブルーのグラデーションと、ボウルの縁から徐々に氷が張っていくようなガラスの模様表現が興味深く、洗練された静寂と、神秘的な雰囲気が感じられました。

▲上段:「Sculptural Nature(彫刻的自然)」エリアより抜粋
下段左:PIETRE TROVANTIコーヒーテーブル・花瓶/COUMMプレート
下段右:全体 GIOBAGNARAアームチェア
暗く焦がしたような木素材、凹凸のあるソファー生地など、石や金属が持つ鉱物の硬さを連想させる空間です。

「Sculptural Nature(彫刻的自然)」エリアでは全体の色構成を、硬い鉱物や砂などを思わせるグレー・ブラウン・オレンジで統一されており、未開の地である渓谷や火星を連想させる空間でした。

岩石が持つ複雑な表情、レンガなどの赤土、金属の経年による変色や錆、陶器の焼成温度で変化する明度のグラデーションなど、自然の要素と偶発性のあるデザインが生み出す、粗削りな力強さや彫刻的な美しさを感じました。

▲第3部「RISING TALENT AWARDS(ライジング・タレント・アワード)」より抜粋
左より:Mathieu Peyroulet Ghilini/Julie Richoz/Samuel Tomatis/岩元 航大/狩野 佑真/簑島 さとみ

第3部の「RISING TALENT AWARDS(ライジング・タレント・アワード)」は毎年1つの国にスポットを当て、その国の才能ある若手デザイナーに授与される賞です。今年は日本が選ばれ、2020年に受賞したフランスの若手デザイナーの作品と向き合う形で展示されていました。若手のデザイナー同士がまるで向き合っているような日本若手デザイナーの新しい感性と着眼点が大変興味深く、多様性と環境問題における素材の再利用法や自然素材を取り入れた繊細なクリエイション作品が多かったと思います。

展示されていたインテリアデザインを通して、大量生産によって作り出された均一なものよりも、古来より身近にある自然の要素を感じられる偶発的で不均一なデザインが魅力的に感じられていることがわかりました。

世界中が大きな混乱や変化の時代を歩んでいる今だからこそ、自然の要素が暮らしの空間に溶け込むようなあたたかみと優しさを感じる色や形、素材に、人々は癒しを求めたくなるのだと思います。展覧会を通じて少し先の暮らしの兆しを感じることができました。

我々も人々の暮らしに彩りを与え、心健やかで豊かになれるカラー企画を提案していきたいと思います。End