メディアアートが彩る夜の遊園地「TOKIWAファンタジア2021」
5組の参加アーティストたち

▲Photo by Satoshi Nagare

TOKIWAファンタジア2021は山口県宇部市・ときわ遊園地を舞台にした市民参加型のイルミネーションイベント。通常の遊園地の風景から一変、多彩な光と音によって演出された夜の遊園地には、そこかしこに来場者の目をひく仕掛けや作品が広がっている。

本イベントでは昨年に続き、全国で活躍するアーティストらも参加。ダイナミックな仕掛けのプロジェクションマッピングやプログラミングを駆使したインタラクティブな作品など、メディアアートを始めとした作品群が目玉でもある。夜の遊園地をメディアアートの「美術館」に変貌させるのは、5組のアーティストだ。

※本イベントは新型コロナウイルス感染症対策への配慮のもと実施されています。




中山晃子

http://akiko.co.jp

▲Photo by Yuichiro Hirakawa

液体から固体までさまざまな材料を相互に反応させて行う独自の描画手法「Alive Painting」シリーズが注目を集めてきた画家・中山晃子(なかやま・あきこ)。今回はその新作「海の見る夢」を発表。それぞれのメディウムや色彩が渾然としていくさま、詩的ともいえるその移ろいを、宇部の景色をモチーフに表現した。

▲Photo by Satoshi Nagare

会期初日には「Alive Painting」のライブパフォーマンスも行なった中山。「宇部市、そしてときわ公園は、海と陸の深い関係性のなかで景色が変化してきた土地。夜の光のなかで海の記憶に思いを馳せ、記憶を導き入れるようなドローイングになれば」と言う。

▲Photo by Satoshi Nagare




MES

http://mesmesmes.asia/

▲Photo by Yuichiro Hirakawa

新井 健と谷川果菜絵によるアーティストユニット・MES。2015年の結成以降、レーザーや仮設資材を用いて、クラブカルチャーと現代美術、ふたつの世界を往復しながら社会を観測する作品を展開してきた。ともに東京藝術大学にルーツをもち、彫刻を専攻していた新井と芸術学を専攻していた谷川。今回MESが発表した「神話装置『巨人の岩』/ MYTHS DEVICE “TITAN’S ROCK”」 は、宇部に伝わる民話「大岩郷の巨人伝説」をモチーフに、丹念な考察とフィールドワークに基づいて制作されたレーザーアニメーションだ。


▲Photos by Satoshi Nagare

高さ9メートルの巨大スクリーンに照射される巨人の顔のシルエット。そこから燐光による残像が、伝承のなかで描かれる自然描写や、宇部の歴史ひいては全国各地の巨人伝説を語る言葉を次々に映し出すレーザーアニメーション。作家が経験したリサーチとインスピレーションが混じり合う約8分間のアニメーションは、伝承を「絵本」のように鑑賞者に語りかける。




中﨑 透

https://tohru51.exblog.jp/

▲Photo by Yuichiro Hirakawa

中﨑 透(なかざき・とおる)は茨城県水戸市を拠点に、看板をモチーフとした作品をはじめ、パフォーマンス、映像、インスタレーションなど形式を特定せずに作品制作を行う美術家。アートユニット「Nadegata Instant Party」や水戸市のオルタナティブスペース「遊戯室(中﨑透+遠藤水城)」の運営など、チームとしての活動も展開してきた。

今回発表した作品は「うべこべうべべ と あべこべあべべ」。登場キャラクター「うべべ」と「あべべ」の掛け合いとともに、遊園地内に点在する14のパネルを介して進む物語を描く。

▲Photo by Yuichiro Hirakawa


▲Photos by Satoshi Nagare

不思議な世界に迷い込んだうべべとあべべの物語は、ふたりにとってのワンダーアドベンチャーかもしれないし、はたまた、いつもの帰り道なのかもしれない。登場キャラクターたちの造形や、宇部市内で発生した廃材から作られたオブジェなど、園内の歩みを進めるたびに目にする物語の各シーンが楽しい。




指輪ホテル

https://yubiwahotel.blue/

▲Photo by Yuichiro Hirakawa

北海道は札幌を拠点に、羊屋白玉が劇作と演出、ときどき俳優を務めるシアターコレクティブ・指輪ホテル。都市や自然のなかで、その土地の人々と協働しながら、その土地ならではの演劇作品を生み出してきた。

そんな指輪ホテルが今回手がけた「モモイロペリカンフラクタル」。大規模なプロジェクションマッピングから、園内各所の彫刻まで、ペリカンをモチーフにした作品群だ。

かつて、ときわ公園は、飼育していたモモイロペリカンが散歩をしたり、子供たちと遊んだりする光景がある場所だ。そして1985年、日本初・人工ふ化で誕生したモモイロペリカンである「カッタくん」も、ときわ公園で生まれ、地域の人々に愛される存在であったという。赤い蝶ネクタイをトレードマークに、宇部のシンボルでもあったカッタくんの当時の様子を想起させる作品群は、人間による環境破壊が進むなか、自然との共生は何か?というテーマを問うている。


▲Photos by Satoshi Nagare




穴井佑樹

https://sorauta.net

▲Photo by Yuichiro Hirakawa

自然物や自然現象にインスピレーションを受けた作品を手がけてきたアーティストの穴井佑樹(あない・ゆうき)は、宇部の語源となったとされる「海辺」に着目。「TOKIWA -移ろいゆく無数の存在を内包したもの-」は、園内芝生エリアを「光の海」に変貌させる作品だ。

▲Photo by Satoshi Nagare

点在するプレートは鑑賞者の動きに反応するインタラクティブデバイスであり、内蔵センサーとLEDによって、その都度、揺らぐ光の波を表現する。「この地を行き交う人々の存在が波を生じさせ、ひとときの目の前の景色は変わりゆく。さまざまなうねりを伴いながら、その土地で刻まれる『時』が織り重なっていきます」(穴井)。




宇部という地に紐づいたサイトスペシフィックな新作を、コロナ禍にあっても果敢に発表したアーティストたちの今後に注目したい。End

▲Photo by Satoshi Nagare