スマートフォンのケースは、もはや世の中に何種類の製品が流通しているのかわからないほど多岐に渡り、またコモディティ化したアクセサリとなっている。さまざまなバッグ製品やカメラ関連グッズを開発・販売しているピークデザインが、このレッドオーシャン化した市場に「モバイル」という製品シリーズで参入を決めたときに採った戦略は、ケース単体ではなくトータルなエコシステムとしてデザインすることと、クラウドファンディングの活用だった。
もともと、ピークデザインはクラウドファンディングの申し子的な企業であり、製品ラインの立ち上げにネットを介した資金調達を行うことによって、大胆な製品開発のリスクをとって革新的なアイデアを実現しやすくなり、同時にコアユーザーのコミュニティを構築するという手法で成長してきた。成功させたクラウドファンディング数は、このモバイルを含めて10にも上り、この点は、他のデザインプロジェクトを抱える企業にも参考となるだろう。
また、エコシステムの点では、アップルがiPhone 12シリーズから磁力吸着式のワイヤレス充電機能であるマグセーフを導入したことに触発された部分が大きいと感じる。マグセーフは、充電以外にも、例えばカードスリーブのような外部アクセサリを吸着させる役目も担っている。しかし、自転車やオートバイのハンドルなどにホルダーを取り付けて固定するには磁力だけでは心もとない。
そこで、モバイルシリーズでは、スリムなケースの背面に磁石とセラミック製のキャッチを組み込み、各種のホルダー(壁面、机上、車載、動画撮影など)との合体時の位置決めと吸着に磁力を利用。そして、より強固な固定が必要な用途には、物理的に噛み合うキャッチングメカニズムを併用するという役割分担を行っている。
実際に自転車用のホルダに吸着させてみると、キャッチに位置を意識しなくとも確実に位置決めと固定が行われ、外す際にもホルダ側のリリースボタンを押し込んでケースを手前に引くだけでスムーズに取ることができる。このあたりの操作感はかなり煮詰められており、デザインプロセスにおいても、この脱着感のチューニングに時間が割かれたことが伺える。
これだけのエコシステムを同時にリリースできたのは、まさにクラウドファンディングがあったからともいえ、逆にクラウドファンディングの利用者も最初からケースだけではない広がりを感じ、スマートフォンを買い替えてもケース交換だけでアクセサリー資産を活用し続けられるからこそ支援を決めた部分もある。これは、企業の熱意とクラウドファンディングの特性がうまくマッチしたデザインプロジェクトだったといえるのだ。