REPORT | ソーシャル / 展覧会
2021.12.24 12:30
2021年11月26日から28日まで、東京・表参道のケリング・ビルで「Fashion & Biodiversity:ケリングと共に考えるファッションと生物多様性」展が開催された。これはグッチやボッテガ・ヴェネタ、バレンシアガなどを擁するグローバル・ラグジュアリー・グループのケリングが主催したもの。同グループは「ラグジュアリーとサステナビリティは同一のもの」という考えの下、10年以上にわたってサステナビリティを戦略の中核に据え、気候変動や生物多様性といった社会課題に取り組んでいる。
展示空間は大きく6つのセクションで構成され、来場者は床に描かれた樹木の根や葉をイメージしたグラフィックに沿って巡っていく。そこでは、原料の調達から製品が店頭に並ぶまでのさまざまな段階での持続可能性に関する取り組みを知ることができる。製品のライフサイクルのうち、どこで環境への負荷がかかるのかを調べるEP&L(環境損益計算書)、主要原料の91%以上が原産国までさかのぼれるトレーサビリティの資料のほか、過去のコレクションで使用した素材に異素材を加えたサンローランのアップサイクルレザーを使ったバッグや、グッチによる、非動物由来の新素材を使用した靴なども展示された。
展覧会の企画・構成を手がけたのは、持続可能な社会の実現を目指すNPO Think the Earthを率いるSPACEPORTの上田壮一。空間や什器のデザイン、グラフィック、コピーライティングなどを担当したのはAXIS designだ。
上田は次のように話す。「サスティナビリティとクリエイティビティの両立が今回の重要なチャレンジでした。どちらにおいてもグローバルリーダシップを感じさせるものでなくてはならないし、同時に、来場者に“自分ごと”として理解してもらう架け橋となるような企画や構成が求められました。サスティナビリティの実現はもはや時間との闘いです。強い影響力をもつファッションブランドが高い目標を掲げ、社会変容の先頭に立つ姿に触れることで、自らの襟を正す機会にもなりました」。
樹木をイメージした展示構成は、表参道の欅並木からインスピレーションを得たという伊東豊雄設計の樹形のビルのファサードに対するリクペクトを表すものだ。展示空間と什器のデザインを担当したAXIS designの皆川雄一は、表参道の緑豊かな環境、建築ファサードとそこに差し込む光といった、さまざまな環境に調和するデザインを目指したという。それにより、ケリングが推進するサスティナビリティを表現できると考えたからだ。
具体的には表参道の木の葉を拾い集め、ブランドイメージにつながる形状を抽出し、欅の葉をイメージしたテーブル什器を設計した。台の形や色、カーブの具合、高さがひとつひとつ異なる什器は多様性を表し、展示面を三次元に折り曲げたことで、葉が舞うような浮遊感を空間に与えた。これらの什器はリサイクル性を考慮し、素材ごとに分解できるようにつくられている。
また、ケリングのマテリアル・イノベーション・ラボがサスティナブルな素材の調達を目指して収集した布地は、テキストをUVインクで印刷して丸い刺繍枠に収められた。親しみやすさ、愛らしさを感じさせる仕掛けが、コンテンツを読みやすいものにしていたと同時に、壁面ではなく分散して設置したテーブル什器にテキストを記すことで、来場者は内容に集中して読むことができた。
特筆すべきは、この展覧会が欧州発の巡回展ではなく、日本発で企画・実施されたことだろう。ケリング会長兼CEOのフランソワ=アンリ・ピノーはサスティナビリティをグループ戦略の中核に据え、「未来のラグジュアリーを創造する」という理念を提唱する。本展全体を通してその理念が表現され、ラグジュアリーファッションにおける持続可能性を推進するためのさまざまな選択肢が提示されていたのではないだろうか。こうした取り組みが国内からも次々と生まれることを期待したい。