北海道・二風谷に訪ねる
クールで多様性のあるアイヌ工芸を知る

アイヌ文化への認知が広がっているなか、「アイヌ伝統工芸」に注目が集まっている。アイヌ工芸は、代々受け継がれている伝統的な技術を守りながら、時代とともに進化している。今回は、札幌から96キロの場所に位置する平取町二風谷を訪れ、アイヌ工芸家と若いクリエイターにインタビューを行った。知るほどに面白い二風谷アイヌ工芸の特徴と、次世代への継承のあり方をレポートする。

▲平取町二風谷

大事なのは、アイヌ文様を次世代に残すこと

民族共生象徴空間「ウポポイ」や二風谷アイヌ文化博物館を見学し、アイヌの「美へのこだわり」を感じた。アイヌは、自然界全てのものに魂が宿るとされている「精神文化」で、生活民具や服装にも魂が宿っていると考え、時間と手間をかけて、オリジナルの「文様」をデザインするそうだ。家紋と同じように、文様を見れば、どこの集落のデザインだと判別できるぐらい、アイデンティティのあるデザインになっている。

後世にそのアイデンティティを残すため、二風谷の工芸家たちはさまざまな活動を行っている。そのひとつは、「テクノロジー」の導入である。「伝統工芸にテクノロジー? いやいや」と思う人もいるだろうが、アイヌ工芸家で「二風谷民芸組合」代表理事の貝澤 守(以下、守さん)さんは、このように思っている。

「楽しく伝統工芸を体験するのが大事です。工芸品を手に取ってもらうときに、やっとアイヌ文様の魅力が伝わります。リアルな手彫り工芸品は高価なため限られた人にしか届きませんが、「レーザーカッター」などデジタル技術を活用することで、手彫りよりも価格を抑えることができるので、もっといろいろな人に知ってもらうきっかけになると考えています」。

▲アイヌ工芸家 貝澤守さん

守さんは「二風谷アイヌクラフトプロジェクト」に参加し、九州出身のプロダクトデザイナー原田元輝さんとのコラボレーションで、アイヌ文様入りの万年筆をデザインしている。原田さんは、「大切な人に贈るもの、代々受け継がれるものを」という思いから万年筆を提案した。それは、アイヌ文様を若い世代に残したいという守さんの思いに通じる部分があった。

▲デザイナーの原田さんと守さんが万年筆のデザインについて語る。

▲守さんがデザインした文様が万年筆にレーザー加工されている。

また、同プロジェクトに参加している、アイヌ刺繍を得意とする尾崎友香さんとアートディレクター 今福弘樹さんも「アイヌ文様の美しさを知ってもらうきっかけづくりをしたい」という思いから、日常的に使える小物をデザインしている。

▲グラフィックに融合できる文様を考えている尾崎友香さん(左)と今福弘樹さん。

両組とも、アイヌ文様の進化と可能性を見せてくれた。まさに、ルーツをもって、進化しつづける現代のアイヌを体現している。

匠たちの凄さ

一方、伝統的な工芸品の「美」を追求するアイヌ工芸家たちが二風谷に集まっている。

守さんが彫り込む「二風谷イタ」は、どれも陰影と曲線の美しさが特徴だ。また、アイヌ文様を施した革製品やアクセサリーはシンプルにかっこいい。さらに、守さんはアイヌ工芸家として、技術を若い世代に積極的に教えたり、ワークショップを開いたりして、伝統工芸の面白さを伝えている。

▲力を微調整しながら、文様を彫る守さん。

二風谷を代表するもうひとつの工芸品は、樹皮による平織の反物「アットゥㇱ」だ。アットゥㇱを半世紀以上にわたり手がけてきた貝澤雪子さん。雪子さんは、今も現役でオヒョウなどの樹皮を剥ぎ、独自の方法で樹皮を染め、1本1本の糸をつくっている。その技は国内外に評価されている。

▲自然の素材を使って糸に色を染める。

▲気さくにおしゃべりしてくれる雪子さん。

二風谷の工芸家といえば、漫画「ゴールデンカムイ」のキャラクターが持つ「マキリ」をデザインした貝澤 徹さんだ。徹さんの作品は独創的なアイヌアートとして、美術館などでも展示されている。二風谷を訪ねる際には、徹さんの「北の工房 つとむ」にも立ち寄ってもらいたい。

▲徹さんが手がけた小刀「マキリ」。

未来につなぐ

二風谷では、次世代の工芸家の育成に力を注いでいる。2019年にオープンした「平取町アイヌ工芸伝承館(愛称ウレシパ)」は、工芸家志望の若い人たちや観光客、町民が気軽に工芸を体験できる場になっている。

木彫りの道具はもちろん、レーザー加工室やオヒョウの樹皮を煮る窯場など、設備がとても充実している。地元の学生はもちろん、町外の志望者の利用も歓迎している。

▲窯場

▲「基本文様」のガイド。
一見複雑なデザインに見えるが、モレウノカ、アイウㇱノカ、シクノカという基本的な文様の要素の組合せによって、さまざまなデザインの文様を描くことができる。

▲シクノカ
(目・形を模したもの)

▲モレウノカ
(渦巻き・形を模したもの)

▲アイウㇱノカ(刺がある・形を模したもの)

アイヌ工芸の面白さに少しでも興味が湧いたら、一度、二風谷を訪ねてみてはいかがだろう。(文:清水)End