REPORT | アート / テクノロジー / 展覧会
2021.11.15 15:55
70年代、スペースエイジ建築の代表作といわれる国際展示場「ICCベルリン」の成り立ちについては前編で触れたが、本編では70周年を迎えた芸術・文化団体「ベルリン芸術祭(Berliner Festspiele)」が、今秋、10日間にわたって開催した「The Sun Machine Is Coming Down」について紹介しよう。
イベントタイトルの「The Sun Machine Is Coming Down」とは、ICCベルリンがオープンした1979年当時、ベルリンに住んでいたデヴィッド・ボウイの1969年の名曲「Memoryof a Free Festival」のフレーズの一部。ICCベルリンのユニークな建物を駆使して、パフォーマンス、音楽、映像、インスタレーションなどを融合させた新たな芸術体験が展開された。
来場者は、会期中いつでも鑑賞可能なインスタレーションや映像作品のほか、自発的に出現するパフォーマンスやコンサート、トークなどを体験していった。
まず注目したいのは、コンテンポラリーアートのプライベートコレクションを持つ「Julia Stoschek Collection」がキュレーションした映像作品。ベルリンを拠点とする英国の現代アーティストEdAtkins、中国のマルチメディアアーティストCaoFei、アメリカの現代アーティストRachel Roseに加え、ニューヨークを拠点とする若手アーティストWangShuiといった国際的に活躍するアーティストの作品の数々が、ハイテク設備が整った空間の中で鑑賞できるとあって、ひじょうに見応えがあった。1978年から2018年の間に制作されたこれらの作品は、身体感覚とさまざまな社会問題との関係に焦点を当て、私たちに未来のあり方を問う内容だった。
中央のホワイエでは、クウェート出身の現代アーティスト、モニラ・アルカディリとレバノン出身の音楽家ラエド・ヤシンによるパフォーマンス「Suspended Delirium」が展開された。彼らが実際にパンデミック下に見た夢やかわした会話からインスピレーションを受け、制作されたこの作品。アーティスト自身と彼らのペットの猫をかたどった3体のロボットヘッドと人工知能の音声が、夢、陰謀、都市の記憶、デジタル時代の生活などについて、ランダムな会話を繰り広げる。現実の中に潜む不気味さや奇妙さが浮かび上がってくるような、不思議な感覚に包まれるインスタレーションだった。
このイベントのもうひとつの見所は、時間によって会場のさまざまなエリアに出現するコンテンポラリーダンスやサーカスのパフォーマンスだった。
日本人コンテンポラリダンサー、中間アヤカによるパフォーマンス「フリーウェイ・ダンス」は、友人や家族など他者の踊りの記憶が振り付けに落とし込まれていた。樹々や草花が植えられ、ブランコや屋台などが点在した日本的な文化も垣間見られる庭のような空間の中で、鑑賞者が自由に歩き回ることにより、ダンサーの新たなインスピレーションを誘発していたようだ。
ロンドン生まれのアーティスト、ティノ・セーガルはベートーベンの曲を「ThisJoy」というタイトルで再解釈した。セーガルは、8人のパフォーマーとともに、作品を分解して歌声と振り付けに再配置し、身体表現や空間を通して音楽の翻訳を試みた。
現代サーカスのアイコンであるWolfgangHoffmannによってキュレーションされたパフォーマンスのプログラムでは、詩的でアクロバティックな身体の動きを通して、ICCベルリンのダイナミックで機械的な空間がより活性化されるような、生命感あふれる演出が印象的だった。
そのほかにもワークショップやトーク、コンサートが日替わりで展開された。生物多様性に富んだ代替的な共存の形について研究行うFloating University Berlinによるワークショップでは、自然と共存する都市空間の活性化とエコシステムデザインなどのトピックが議論され、来場者とともにこれからの都市のあり方を考えるオープンダイアログが実施された。
音楽キュレーターのMartin Hossbachによるコンサートプログラムでは、Alexis Taylor, Nazanin Noori, The White Screen, Tegel Mediaといったベルリンを拠点とするミュージシャンが名を連ねたほか、実験的な電子音楽の分野でレーベルやアートプラットフォームを運営するUnguardedによるキュレーションのもと、さまざまな若手アーティストのオーディオビジュアル・パフォーマンスも披露された
長い間、見捨てられていた国際会議場に新たな息吹が吹き込まれた10日間。この建物の今後は、いまだ検討されているが、芸術や文化を通し、未来社会を考えるための対話の場として活用される可能性を含め、多くのインスピレーションを与えてくれる体験が生み出される場になることを願いたい。(写真はすべて ©Berliner Festspiele/Eike Walkenhorst)