noizらが「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2021」にインスタレーションを展示。
モノと場所、そのデザインの意味を問い直そう。

2021年10月15日(金)から11月3日(水・祝)までの間、六本木の東京ミッドタウンで「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2021」が開催される。「デザインを五感で楽しむ」をコンセプトに、2007年から開催しているデザインの祭典。 国内外の第一線で活躍するデザイナーや注目のデザインが、東京ミッドタウンに集まり、デザインの魅力や可能性を誰もが身近に体感できるイベントだ。14回目となる今回は「デザインの裏 – Behind the Scenes of Design -」をテーマに、デザイナーの思考や制作プロセスに焦点を当てる。


noiz「unnamed ー視点を変えて見るデザインー」
見ることで完成する建築

イベントの見どころは、参加デザイナーが制作する3つのインスタレーションだ。ひとつ目は、建築デザイン事務所noiz(ノイズ)による「unnamed ー視点を変えて見るデザインー」。芝生広場に、一見ランダムな板の集合体にしか見えない3つの構造物が並ぶ。


▲「unnamed」

「デザインの裏」というテーマを、「今まで見過ごしていた視点」と解釈したnoiz。豊田啓介は、「デザインは本来、使う人との関係性のなかで常に意味や価値が生成されるもの。今回は、見る人と見られるものの関係そのものをデザインし、それを楽しく発見してもらいたいと考えました」と説明する。

▲「unnamed」

作品は、見るという行為によって完成する建築をイメージした。遠くから俯瞰するだけでは何だかわからない。しかしある程度近づいて、さらに特定の角度から見た瞬間、目の前の構造物がある像を結び、隠されたモチーフの存在に気づく。「精細な3Dモデルを製作し、天候や光の具合によってどう見え方が変わるか検討しました」と豊田。


▲「unnamed」の作品紹介パネルも、ある角度から捉えることによって正円を見ることができる。

オススメの楽しみ方は、「写真に撮ること」だそう。「目にした最初のうちは難しいかもしれませんが、写真を撮っていくうちに、作品それぞれがもつ輪郭、全体像の読み込みがしやすくなります。時間や天気、角度によっていろいろと発見があると思うので、写真をシェアすることも楽しいと思います」。

「正解があるものにしたくない」という考えからタイトルも「unnamed」としたが、ここだけのヒントは「おもちゃ」。大人も子どもも誰もがよく知るモチーフが隠れているので、家族で宝探しのように楽しめるはずだ。

▲隠されたモチーフを見つけるために、作品近くの四角枠をヒントにアングルを探ってみよう。


大日本タイポ組合「ウラファベット」
“3時のおやつ”みたいなデザイン

ミッドタウン・ガーデンの木々のなかに現れる色鮮やかなイラスト。その裏側にまわってみると、今度はイラストに隠れていたアルファベットの文字と言葉が現れる。「ウラファベット」は、新しい文字の概念を探る実験的タイポグラフィ集団の大日本タイポ組合(秀親/塚田哲也)による作品だ。「裏」というテーマをさまざまな視点でとらえなおし、文字がもつ「見る」と「読む」という二つの側面を表裏一体で表現した。

▲「ウラファベット」

「『東京ミッドタウンらしさ』を意識しながら、いくつかの言葉を決めました。言葉それぞれの文字、アルファベットを配置して、文字が文字とわからないようにイラスト化していくというのがおおまかなプロセスです。文字として見えるところだけでなく、余白のかたちに注目したり、図柄のなかにいかに文字を溶けこませるかなど、まさに表と裏をいったりきたりしながらの作品づくりでした」。

▲「ウラファベット」

「僕らにとってデザインは、なくてもいいけどあると幸せになる3時のおやつみたいなもの」と語るふたり。「ウラファベットをはじめ、僕らがつくったものを一番楽しく思ってもらえるのは、最初は何だかわからないところから、その仕掛けに気づいて『なるほど!』となる瞬間。その気づきの快感をぜひ味わってもらえたら」。

会場ではぜひ、イラストの前に立って、そのイラストのどの部分が文字になっているかを想像してみてほしい。反対側にまわってみると、文字の形と並び順の変化、そこから浮かび上がる言葉を見つける楽しみがあるだろう。


▲外苑東通りからミッドタウンガーデンを歩いていくと、ウラファベットのイラストが順々に目に入る。表がイラスト、裏に文字とされているが、表と裏のギャップを楽しむうえでは、どちらから見ても鑑賞が成立する。見えない裏側を想像してみよう。

▲大日本タイポ組合(秀親/塚田哲也)


YKK AP × 鈴木啓太(PRODUCT DESIGN CENTER)「未来をひらく窓ーGaudí Meets 3D Printing」
ガウディに学ぶ、未来の自由な窓

この展示は、YKK APとプロダクトデザイナーの鈴木啓太が、世界的建築家、故アントニ・ガウディが手がけた窓のデザインに学びながら、未来の窓のプロトタイプを試みるというもの。「デザインの裏にいる“人”に注目した」という鈴木が、YKK APと共に、さまざまな技術をもつスタートアップや工芸職人とのコラボレーションを実現。3Dプリンティング技術を使って、窓の新しい機能やあり方を3種のプロトタイプをもって提案する。

▲「未来をひらく窓―Gaudí Meets 3D Printing」展

プロジェクトを進めるにあたり、鈴木はまず窓の歴史を紐解いた。建物の「穴」としてはじまった窓は空調や採光の役割を担うだけではなく、欧州では宗教的な意味をもち、芸術のモチーフにもなった。20世紀になると、窓はプロダクトとして技術的にも成熟した。

▲形態そして機能の観点から、生命感ある窓のデザインを手がけてきたガウディ。

鈴木は「コロナ禍で、喚起や新しい空間設計といった面から窓が見直されているタイミング」と語る。「ガウディという、自然環境と人を有機的につなげるデザインに取り組んだ建築家に学ぶことで、四角い窓だけではない、これからの窓の概念について考えたい」。

▲「太陽と月の窓」。回転軸に沿って地球儀のように動かすことができる。太陽光に反応して色が変わる透過部によって、日中はステンドグラスのような美しい色彩の影が現れ、夜には繊細な月灯りを室内に取り込む。

▲「風が巡る窓」。蝶の羽根を模した複雑なメッシュが織りなすジャイロイド構造によって常時換気を可能にした窓。


▲「音の窓」。セラミック製のホーン型の断面形状によって、自然の音や動物の声を拡張し屋内に取り込むことを意図したデザイン。

▲「未来をひらく窓―Gaudí Meets 3D Printing」展 プロセス映像

「これからのものづくりは大量生産から、少量・中量生産に向かう」と考える鈴木。プロジェクトでは、3Dプリントという先端技術を使いながらも、企業や職人など「人の手」を通じて、さまざまな素材や形と戯れながら窓づくりを楽しんだという。これまでの生産方法にとらわれない自由な発想に刺激を受ける機会となるはずだ。

また会場では、隈研吾や藤本壮介ら5組の建築家が未来の窓について語るインタビュー映像を上映するなど、窓についての多角的な視点を得られるのもポイント。特設ウェブサイトではインタビュー全編を視聴できる。「会場に行けなくてもプロジェクトを楽しめるように映像コンテンツも充実させました。会場とオンラインを行き来すれば、より楽しんでいただけると思います」(鈴木)。

▲WINDOW ON THE FUTURE 建築家インタビュー 隈 研吾

▲鈴木啓太(PRODUCT DESIGN CENTER)


noiz 豊田啓介に聞く「モノや場所がもつ力」

昨年の「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH」は、コロナ禍で中止となった。2019年から準備を進めてきたが、イベントのあり方や体験の価値が大きく変わり、最終案に至るまでに試行錯誤を繰り返したというnoizの豊田啓介。今回実現した展示では、「デジタル技術を駆使しながら、あえて現場で体感することでしか発見できないモノ性や場所性にこだわった」という。

パンデミックによって、デジタルプラットフォームの情報チャネルのみがコミュニケーション手段となる事態が発生した。豊田は、「そうした社会に人々が否応なく押し込まれたことで、逆に、デジタルの対極にあったモノや場所への接続方法を模索するようになった」と分析する。

▲豊田啓介(noiz)

「既存の社会はデジタルとアナログを二項対立させる傾向にありました」と豊田。しかし、これからのデジタル技術がもたらす環境では、単純に白か黒かではない、グラデーショナルな選択肢が増えていくはず。「パンデミックによって、デジタルとアナログの双方向的な接続価値について議論がなされるようになったのは、社会の大きな進歩ではないでしょうか」。


混在具合がおもしろい街、六本木



豊田にとってデザインとは、「答えを固めて相手に与えることではない」という。そうではなく、それを見る人や体験する人に新しい価値や気づきのきっかけを与えること。それがモノであっても情報であっても、「見方が変わり、見る人の内側の変化を誘発するものでありたい」。

「だから建築をやっているけれど、建築雑誌はほぼ見ません」。数学や分子生物学、ゲームなど、専門とは違うが興味あることに積極的に触れることで、自身のなかにあえてアンバランスを設ける。重心をずらすことで生まれる気づきから、新しい価値を生み出すプロジェクトも多い。一方で最近は「無性に純粋な家や建物を作りたい」とも。改めて、モノや場所がもつ力を見直しているところだ。

例えば、六本木という場所もそうだ。東京ミッドタウンや六本木ヒルズができたことで、豊田にとっては仕事や美術鑑賞、食事に行く街になった。「昔から残る裏通りの雑居ビルや、夜の猥雑な雰囲気も残っていて、その混在具合がおもしろい。新しい価値のポテンシャルがまだまだあるように思います」。

この秋、感染対策には留意しつつ街に出て、デザイナーたちが仕掛ける新しい気づきの装置に触れてみてはいかがだろう。End

Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2021

会期
2021年10月15日(金)~11月3日(水・祝) 11:00~21:00
会場
東京ミッドタウン各所
詳細
https://www.tokyo-midtown.com/jp/designtouch/

▲【Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2021/東京ミッドタウンデザインタッチ2021】参加クリエイターに聞く”出展作品の見どころ”

▲「unnamed」「ウラファベット」「未来をひらく窓ーGaudí Meets 3D Printing」の会場地図