輸送とインフラをニューノーマルへ

この連載は、デザインファームfrogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通BX・クリエーティブセンター 岡田憲明氏の監修でお届けしています。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、インフラおよび運輸業界のオペレーションやビジネスモデルの根本的な脆弱性を明らかにしました。今回は、この2つの業界がコロナ禍以降の「ニューノーマル」に適応していくための3つの方法を提案します。

インフラ・運輸業界の企業は「アセットヘビー」(多くの資産が必要)なビジネスとして知られています。これらの業界の企業は長期にわたって安定した収益が得られることを前提に、独自の資産や「エコノミック・モート」(経済的な堀:他社の参入障壁となる競争優位性を示す概念)を構築するための大規模な先行投資をしてきました。しかし、どちらの業界も人・物の往来や人々の集まりに依存しているため、コロナ禍で大きな打撃を受け、安定成長の予測はすっかり外れてしまいました。

では、企業が価値だと考えていたものが最大の重荷に変わってしまったとき、何が起きるのでしょうか? 例えば、数週間の間に交通量が85%も減少したら、有料道路の運営はどうなるのでしょう? 感染を恐れて旅行者がフライトをキャンセルし、空港を避けるようになったら? 政府がソーシャルディスタンスを保つための規制を出し、建設現場で作業ができなくなってしまったら、建設プロジェクトはどうなるでしょう?

そう、ご推察の通りです。インフラ・運輸業界の企業は一見、長期的に安定した、堅実で信頼できるビジネスモデルのように見えます。しかし、コロナ禍のような想定外の出来事からは、甚大な影響を受けることが証明されました。両業界を含む多くのセクターが、パンデミック発生から1年以上が経過している現在もまだ、この状況になんとか適応しようと苦戦しています。

ポストコロナ時代に適応するための3つの方法

世界がポストコロナの時代を迎えようとしている今、企業は今回のパンデミックから得た教訓を生かして、ビジネスの脆弱性をチャンスに変えることができます。

1 消費者行動の変化をとらえ、新たなニーズに備える

新型コロナウイルス感染症のパンデミックは私たちの生活や仕事、人との関わり方や移動の方法などを大きく変えつつあります。例えば、パンデミックの発生以来、消費者は利用する商品やサービス、あるいは訪れる場所の衛生状態を以前より強く意識するようになりました。

今後、顧客が衛生面に関してさらに高い水準を期待する可能性があります。実際、公共の場や共有スペースを訪れることへの不安や恐怖を軽減するためには、衛生管理が根本的な対策となるでしょう。

シンガポールのチャンギ国際空港は、このような消費者行動の変化への対応を余儀なくされた企業の1つです。清掃や衛生管理を強化するために多くの取り組みを組織的に実施し、ウイルスによる汚染の可能性や、乗客の不安を最小限に抑える努力をしました。

具体的には、赤外線検温システムの導入、頻繁に人の手が触れる箇所への抗菌・抗ウイルス剤の塗布、オゾン水によるトイレの便器や床の殺菌・消毒などです。チャンギ国際空港の取り組みは、新しい技術の採用やプロセスの変更を特に重視し、顧客の安全を守るために一歩踏み込んだ対策を取ること、そして常に政策や規制で要求される前に対応する必要があることを明確に示しています。

企業がポストコロナの世界で生き残るには、消費者行動の変化に対応した動きをする必要があります。そのためには、現在の消費者の行動を観察し、そこから見えてきたニーズに応えたうえで、現在の状況から将来のニーズを予測することが大切です。ユーザーの声に耳を傾け、行動の変化を観察する企業は、新たなニーズにも迅速に対応できるでしょう。

2 既存の能力と資産を創造的に再活用する

運輸業界の企業が、利益を上げるためには資産の利用率を高める必要があります。しかし、今回のパンデミックによる、ソーシャルディスタンスの確保や都市のロックダウンなどの二次的な影響を受けて、多くの運輸会社が輸送量の急激な減少を経験しました。

自宅からでも参加できるビデオ会議ツールの普及や新たな移動制限により、出張も減少しています。消費者も、直接店舗に行って商品を購入するのではなく、自宅にいながらネットで買い物をするようになりました。

方向転換を効果的に行うには、創造性と柔軟性が必要です。その1つの例として、中国のハイヤー企業「Didi Chuxing(滴滴出行)」社はパンデミックの最中にフードデリバリー事業への進出を発表しました。配車サービスの提供という従来のオペレーティングモデルを素早く変更し、中国の21都市での新サービス同時運用開始に向けて組織的な調整を行ったのです。

これは、既存のプラットフォームとドライバーのネットワークを活用し、配車サービスの需要減少による影響を緩和しようとする試みでした。同社は現在、ステイホーム中の人々をターゲットに食料品やコーヒーなどを安全に届けるサービスを提供しています。

ポストコロナの世界において、顧客中心主義を追求する企業こそが成長していく理由は容易に想像できます。進化する顧客のニーズを満たすために、自社の能力や資産の使い方を創造的に再考することができれば、変化に適応していけるからです。

3 顧客中心主義でポートフォリオを多様化し、新たなユーザー価値を獲得する

ポストコロナで業績回復を図りやすいのは、「ニューノーマル」に素早く反応し、適応できる企業です。「消費者は、常に新しい領域に挑戦し、新たな製品・サービス・体験を通じてより多くの価値を提供してくれるブランドを選び、そのブランドへの愛着を持ち続ける」。これからはそういう時代になっていくと思われます。

その際、提供する製品やサービスの完璧さよりも提供スピードのほうが重要になる場合もあるでしょう。企業は、新しい分野への進出や戦略的パートナーシップの締結に向けて、常に学び続けることも必要です。

新しい分野への進出とパートナーシップの構築を同時に成功させた例がGoogleの兄弟会社であるWaymo(ウェイモ)です。Waymoは、一般的にはアリゾナ州フェニックスで完全自動運転の配車サービス「Waymo One」を提供している企業として知られています。

しかし同社は、パンデミック時の配車需要の落ち込みやEコマースの急拡大を受け、22億5,000万ドルを調達して、2020年3月に従来の長距離トラック輸送や物資輸送に代わる自動配送サービス「Waymo Via」への取り組みを進めました。その数カ月後には、ダイムラー・トラックと提携してClass 8(大型トラック)の自動運転商用セミトラクターを開発することも発表し、物流・物資輸送事業をさらに拡大しました。

顧客体験(CX)に着目すると、顧客の新たなニーズを満たすにはどの分野に事業展開すればよいかの方向性が明らかになり、ポストコロナという不確実性の高い未来に順応していくためのヒントが見つかります。特にインフラや運輸などアセットヘビーな産業は、未来に向けて前進するための投資に新たな価値を見出す必要があります。

新たな領域への戦略的発展を後押しするのが顧客中心主義です。その点については、frogの「顧客体験の事業価値」をダウンロードし、顧客ネットワークや顧客生涯価値の拡大とともに、設備投資の効率化が顧客体験の重要な指標となる理由をお読みください。

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