オンラインで開催された、2021年 ISDW 国際学生デザインワークショップ 

2020年春に全世界に拡がったパンデミックは、人間の社会生活に大きな影響を与えた。経済だけではなく、文化、教育においても、多くの活動は停滞、休止、打ち切りとなった。今年に入ってからも、大学をはじめ各教育機関ではリモート授業が続いている状態だ。
そんななか国際間で学生が共同生活・作業を行なってきたワークショップが、8月16日から27日までオンラインで実施された。ISDW(International Student Design Workshop)国際学生デザインワークショップである。

オンラインでおこなわれたワークショップ

ISDWは、JIDA(公益社団法人日本インダストリアルデザイン協会)とCIDA(China Industrial Designers Association)、KAID (Korea Association of Industrial Designers)という日本、台湾、韓国のインダストリアルデザイン協会3団体で結成したADA(Asia Designer‘s Assembly)という組織が企画・実施している。

デザインワークショップとしての歴史は長く、2001年のADAを機に02年に日本の金沢で初めて開催され、20年近く続いているワークショップだ。MERSが起こった15年、そしてコロナが広がった去年を除けば毎年実施されてきた。21年の開催もどうするかが検討されたが、おもいきってオンラインでのワークショップ実施というまったく新しい試みに挑戦することとなった。

各国の大学で公募され、今回は韓国から21名、台湾25名、日本24名が参加し、それが10チームに分かれる。アジアのなかではインダストリアルデザインの存在意義と価値を早くから認知してきた3国だが、共にお箸を使う国として、地理的距離の近さだけではなく文化価値という点においても、各国の相違はあるものの共通の認識が通底しているようだ。

▲チーム1[Eywa]:日常生活に欠かせず、コロナ禍でより頻繁に使われるようになったスーパーマーケットやモールのショッピングカートに注目した。車椅子でも操作しやすく子どもを乗せることができる母親のようなショッピングカートEywaを提案。
メンバー:Maho Kamiya, An Soyong, Yuan-liang Jiang , Kosei Sugiyama, Wei-peing Hung, Wei Chen, Jeon Jae Jeong
チューター:Masayuki Morishita

▲チーム2[E-motion]:チーム2はZoomをつかったジェスチャーゲームでお互いの関係を深め、オンラインで感情を探った。そこからおもいやりのあるコミュニケーションツールを考案した。
メンバー:Yunjie Lan, Yui Kurano, Kenta Uehara, SoJeong Jeong, Zi-Rong Chen, Shang-Yi Liao, Wei Zhang
チューター:Kenta Ono

今年のテーマは「おもいやり」

例えば今年のワークショップのテーマは「思い遣り——アジア的な気配り」。共通言語は英語なので、おもいやりという言葉が1度英語の訳文というフィルターを通して示されるわけだが、出てきたプロジェクトはどれもテーマの核心を突いたものだった。

テーマは毎年開催国が決める。ディレクターの黄ロビン(Ko Robin・名古屋学芸大学教授)によれば、アジア・日本文化に独特な価値観を世界に発信したいという願いがあったそうだが、過去にも「おもてなし」や、「いただきます」といったテーマで学生が頭をひねった。しかし例えば09年の韓国は「Food」、19年の台湾では「Island is My Land」など開催年や国によってテーマは大きく変わる。

チーム3[New Label]:ペットボトルとラベルのゴミの分別はなぜ進まないのか。ラベルをはがすのに、フラストレーションがあるからではないだろうか? 接着面積を再考しバーコードをラベル内側に印字した、人がはがしたくなるラベルを考察した。
メンバー:Wei-Ni Hsu, Soichiro Otsu, Minjoon Choi, Karen Matsui, Jeongeun Park, Jiyong Min, Ting-yu Lin, Shan-Song Young
チューター:Yosuke Ashizawa

共同生活を行ってきた例年に比べて変わった点は、開催期間を1週間から2週間へ拡大させたこと、チューターを設けたこと、渡航費用が必要なくなったことから、残った予算で記念冊子を作成したことなどである。またデジタルツールとしてはZoomやフェイスブックだけでなく、オンラインホワイトボードのMiroを使いディスカッションを重ねた。最終的には3D プリンターを使い具現化させる他、ビデオで動画という表現をとっているものも多い。

チーム4[Re:Vivre]:投票による優秀賞を得たチーム4。インターネット上のアプリケーションは、誹謗中傷・いじめをも生み出した。その解決法をオンライン、オフラインの両面で考えた。人の悩みを聞く温もりを感じる手描きのソーシャルコミュニケーションと、実際の鏡やキーボードで人々に警鐘を鳴らす方法だ。
メンバー:Sang-Ting Han, Cha Eunsun,Lee Sohee, Yoshizawa Sato, Jia-Chi Huang, Hoi-Piu Yuen, Azumi Kira
チューター:Shin Sano

正直キックオフ直後は戸惑いもあり進行が危ぶまれたが、最後の数日の追い上げは目覚ましく結果をきちんと残すことができた。
「最後までねばって形あるものにするという精神は変わりませんでした。ほぼ全員が最後までやり遂げましたから。コミュニケーションをとるのは例年より難しかったのは確かですが、オンラインの悪い点と良い点両方がわかったということでも意義はあったと思います」とチェアマンで名古屋工業大学教授の井上雅弘は語る。

チーム5 [“Peddy”&”Lovenny”]:コロナ禍で増えた捨て犬、捨て猫などのペット放棄に注目。これを解決するために子どもにペット飼育を指南するPeddyというプロダクトと情報を補完するLovennyというアプリケーションサービスを考えた。
メンバー:He Yie-Fie, Kai-Fen Liu, Hyena Kim, Itsuki Kiyoshima, Kuan-Ting Lin, Shiori Katayama
チューター:Soonghul Kwon

チーム6[Emerengency Escape Tool]:最近よく起こる河川の急な増水や洪水などの災害。チーム6では、災害時にクルマの外に脱出するための緊急避難キットを発案した。どういう非常事態が起こるかというリサーチから人の行動を想定し、シートベルトを切断、ガラスを破るなど多機能に使えるツールが完成した。
メンバー:Bang-Xuan Huamg, Lee Jae Yong, Hatsune Taya, Xiao-Qi Chen, Chie Shimizu
チューター:Youngyun Kim

▲チーム7[Drops]:おもいやりのデザインとして製品を使う者だけでなくそのまわりの人にも役に立つアイデア。雨の日そのもの以上に憂鬱なのが、乗り物で移動中の濡れた傘がある。傘についた水滴をぬぐうというシンプルな発想だが、バスの中やバス停など設置する場所によって、自分だけでなく他人をも快適にする。プロダクトだけでなく角度で意味合いの変わる傘形のロゴマークも作成した。
メンバー:Yu Ya Cheng, Yu Ru Wong, Seunghyeok Kim, Syurina Ata, Chunkai Hsieh, Asato Yamasaki
チューター:Seunghoon Shin

チーム8[Keeper]:客が減ってしまった飲食店経営者に対するおもいやりを形にした。コロナ禍では、客に会話をすることなく静かに食事をすることが求められているが、テーブルの上に置かれたランプの光の色・表情とスマートフォンを使って、コミュニケーションを取ることができる。会話なしでも食事を楽しむことができ、客にまたレストランに行きたいと思わせるプロダクトだ。
メンバー:Jia-yu Wu, Xin-yi Cheng, Lee Sunggue, Jeong Hyeji, Itsuki Sano, Natsumi Ikeshita, Eva Wong
チューター:Kevin Tseng

コミュニケーションの場をつくるのが教育

そもそもこのワークショップの意義はどこにあるのだろう。ADAの企画書には「アジアにおけるインダストリアルデザインのポジションを向上させることが目標」とある。「私は一番大きな意義は3カ国の学生が共同作業を行うことによってできるネットワークづくりだと思っています」と井上。

それを受けて黄は、「アジアには国際企業が多いんです。IT産業、自動車、家電メーカーなど多種の企業が存在します。今回オンラインによる国際共同作業をした経験は、将来就職したあとにも役に立つのではないかと思っています。こんな状況でも開催できたのですから、今後もぜひ続けていきたいですね。これだけ長く続いているデザインの学生のためのワークショップはないのですから」。

各チームから出てきたアイデアは最初はナイーブなものであったが、プレゼンテーションを重ねる毎に加速度を増してリアリティーが出てきた。オンライン上であっても他チームの活動を目にすることによって刺激を受け、その刺激がまた新たな結果を生み出すという循環が生まれたようだ。
対面でのワークショップの再会を待ち遠しいが、この2週間をかけたオンラインでの創作過程もまた忘れられないものになったのではないだろうか。(文/AXIS 辻村亮子)End

チーム9[OMO]: 清掃はさまざまな作業がある重労働であるが、人々はあまり注意を払っていない。とりわけ年長者にとって屈伸作業は辛い仕事だ。こうした作業量を軽減し、乱雑になりがちな掃除道具や集めたゴミをきれいに整理することができる。清掃作業のイメージを一新するカートをつくった。
メンバー:Chanwoo Park, Kai-Jie Yan, Zhang Jiajin, Akari Yamada, Shih-ting Cheng, Liu Yuyang, Vicky Chang
チューター:Wen-Ham Chiang

チーム10[A Bird-Centered Design(ABCD)]: 最後のチームは、都会に棲む鳥へのおもいやりから、人と鳥の共存をめざす鳩の巣を発表した。最終的には人間だけでなく鳥や植物にとっても良い都市環境に発展させることを目指している。このチームも優秀賞を得た。
メンバー:I-Han Hsieh, Ming-Jie Jiang, Han Yena, Hong Sooyeon, Atsuki Usui, Naoyuki Okamoto
チューター:Shikai Tseng