「未完=可能性」を掲げ、クリエイターがつながる新拠点
外苑前にオープンした「LUMIX BASE TOKYO」誕生の舞台裏

Photo by Kozo Takayama

2021年に20周年を迎えたパナソニックの「LUMIX」が、東京・外苑前にブランドスペースをオープン。ショールーム機能やワークショップ機能などを備えた「LUMIX BASE TOKYO」は、クリエイターを新たなターゲットに据えた新拠点だ。リアルな場だからこその体験を通じたコミュニティー形成に向けて、LUMIXが今、新しい一歩を踏み出した。

Photo by Natsu Tanimoto

つながる場、「LUMIX BASE TOKYO」

2021年5月、東京・外苑前にオープンした「LUMIX BASE TOKYO」。ここは、2001年に誕生し、20周年を迎えたばかりのパナソニックのデジタルカメラブランド「LUMIX」のブランドスペースだ。足を踏み入れると、広々とした、ひと続きになった空間。あちこちに、最新モデルを含むLUMIX製品に加え、動画や静止画の撮影に用いる照明やジンバル、マイクといったさまざまな製品が展示されている。
 
同施設のオープンを主導したパナソニックのデザイナー、武松大介は、「カメラは単体ではなく、周辺機器と組み合わせて使うことが多い。実物に触れて試せるように、LUMIX製品はもちろん、周辺機器メーカーのものも多く展示しています」と語る。LUMIX BASE TOKYOでは、東京・銀座にあった従来の「LUMIX GINZA TOKYO」で提供していたLUMIX製品のクリーニングや修理、交換レンズのレンタルなどのサービスも継続している。しかし、この場所は、それらの用途に留まらない。

パナソニック デザイナー 武松大介/1991年生まれ。LUMIX担当のプロダクトデザイナー。同時にLUMIX BASE TOKYOの立ち上げやSNS向けコンテンツのディレクションなども担当する。
Photo by Natsu Tanimoto

LUMIX BASE TOKYOが目指すのは、人々が出会い、対話が生まれる場だ。ブランドとユーザーのタッチポイントを創出しながら、クリエイターとブランドが、クリエイター同士がつながるという新たな役割を掲げている。外苑前への移転を機に、手ぶらでやって来ても、動画撮影やライブ配信できるスタジオ機能も備えたのもそうした狙いの一環だ。ほかにも、クリエイターが自由に動画編集などに打ち込めるフリースペースとしての機能も備えている。その先には、LUMIXブランドを中心としたクリエイターのコミュニティー形成を見据えている。

LUMIX BASE TOKYOのコンセプト開発など、全体のディレクションを担当したAXIS デザイン研究所の庄司怜は、「商品を見たいだけなら量販店に行けばいい。初期には、ブランドの拠点として、リアルプレイスが持つべき意味や役割を何度もディスカッションした。その結果、人々が集まることで、新しいことが生まれる場を目指そうと決まりました」と振り返る。武松は、「従来の拠点でのコミュニケーションは、一方通行で終わっていました。LUMIXをハブに、人々がつながっていくのがLUMIX BASE TOKYOです」と続ける。

AXIS デザイン研究所 デザインストラテジスト 庄司 怜/1979年生まれ。プロダクト/UI/UXデザインを軸に、クリエイティブ・ディレクションから戦略構築まで、領域にとらわれないコンサルティングワークを行っている。
Photo by Natsu Tanimoto

場のコンセプトは「未完=可能性」

LUMIX BASE TOKYOのコンセプトは、「未完=可能性」だ。これには、大きく3つの意味が込められている。1つ目は、新たなターゲットに設定した、若手クリエイターに向けたメッセージとしての「未完=可能性」だ。若いクリエイターを可能性の塊と捉え、この場所でさまざまな人に出会い、さまざまな表現に触れ、成長する。自分らしい表現や新しい表現を模索し、育っていく。そんな挑戦の場所になることを望んでいる。

2つ目は、LUMIXブランドに向けて。近年、LUMIXの強みは静止画から動画にシフトしようとしているが、いずれにしても、LUMIXは動画や写真を用いて表現するクリエイターのパートナーのような存在であり続けたい。そんな考えのもと、LUMIXが今後どのようなブランドを目指すか。この場所を訪れる人々とコミュニケーションを重ね、フィードバックを得ることで、新たなブランド像やブランドポジションを模索し挑戦していく。
 
3つ目は、この空間自体が未完であること。空間としての基本的な機能はあらかじめ備えているが、必要なのは、用途を決めきるのではなく、余白を残し、訪れる人々の新たな挑戦をサポートしていくこと。ここに集うクリエイターが求める形に変容し続けることで、この空間のあるべき姿が形づくられていく。

Photo by Kozo Takayama

「可変性」を備えたフレキシブルな空間

未完の空間であるLUMIX BASE TOKYOの空間としてのテーマは「可変性」だ。クリエイターが求める未来の用途はもちろん、ショールームや動画スタジオ、ワークショップやセミナーを開催するなど、多様な用途に合わせる柔軟さが求められた。もともと、ワンフロアの空間を求めてこの場所に決めた経緯もある。従来のLUMIX GINZA TOKYOは、建物の1階と2階にスペースが分かれており、運営しにくいなどの課題もあった。新拠点は、あらゆる用途に使えるフレキシビリティーを備えながら、多くの人々を招き入れる、シンプルな空間を目指した。

Photo by Natsu Tanimoto

シンプルかつ可変性を持つ空間を象徴するのが、天板とフレームを組み合わせた特注の什器だ。フレームは3辺の長さが異なるため、フレームの置き方を変えることで、テーブルや展示台、ベンチとして使用できる。1つのフレームと天板の組み合わせだけで多用途に使える什器が空間の可変性を見事に表現している。空間デザインを手掛けたJamo associatesの井上祐二は、「当初、空間の可変性を探るなかでは、可動式の什器を壁に沿わせるように用意し、用途に合わせて空間を区切って使うようなアイデアもあった。最終的には、シンプルな箱のような空間にあわせて、什器もシンプルに考え、より簡単に動かすことができる可変性を高めた什器を考案し、さまざまなシチュエーションに対応できる空間とした」と言う。

動画配信スタジオの多くは、いかにもスタジオといった装飾を施したケースが多いが、ここは白を基調としたシンプルな空間となっている。こうすることで、動画収録をするクリエイターが飾り付けるなど、それぞれの好みを反映した自分だけの空間が立ち上がる。ここにも、クリエイターと一緒につくり上げ、挑戦するという意図が込められている。

Jamo associates 井上祐二/1978年生まれ。大学で建築を学び、卒業後Jamo associatesの立ち上げに参画。http://www.jamo.jp
Photo by Natsu Tanimoto

ブランドを体現したサインと照明

LUMIXとは「光(ルミナス)」とデジタルの「融合(Mix)」を組み合わせた造語を、ブランドネームとしたものだ。その「光」をモチーフにLUMIX製品のレンズ部分には光軸を表現する白いラインが入っている。光軸とは、レンズなどの中心と焦点を結ぶ直線のこと。光学技術に対するLUMIXの変わらないこだわりを表現している。そのデザインアイデンティティーは、LUMIX BASE TOKYOにも施されている。1つが、入口付近にある、レンズの「シリンダー(円筒)」を表現した木製の巨大なサインだ。井上は、「中に入るとシリンダーを思わせる大きな丸いサインが目に入る。カウンターから天板を貫かせることで、光軸をイメージしたラインを走らせています」と言う。

Photo by Kozo Takayama

もう1つが、天井部分の照明だ。斜めにレイアウトし、点灯や消灯を3段階に切り替えられる照明は、光軸を思わせるラインで動きを演出。映像収録においては、照明を変化させることでインパクトをもたらすうえ、場所が持つ可変性も改めて表現している。この天井照明と円筒のサインには、外を歩く人々にこの場所をアピールする狙いもある。歩道を歩いていると、大きなガラス窓越しに、斜めに走る天井のライトや円筒のサインが目に入ってくるというわけだ。庄司は、「外から見た際の印象として、通りかかった人が、『ここはなんだろう?』と思えることを意識しながらデザインしました。目的を持って訪れる人もそうでない人も、もっと言えば、これまでLUMIXに触れたことがない人も、ふらっと訪れられる場所になれば」と話す。

成長する体験や場を積極的に提供

LUMIX BASE TOKYOは、特に大学生から30代前半といった、若い世代のクリエイターとの接点の創出を狙っている。クリエイターのために用意した場所を、より多くの人々に訪れてもらいたい。そう考えて、動画用の高性能なモニターやWi-Fi環境なども整えた。オープン後は、イベントや情報発信に力を入れている。定期的に開催するカメラやライティング、音声といった機器の使い方をテーマにしたクリエイター向けのワークショップもその1つだ。さらに、高校生を対象にした、より若い世代に向けたワークショップも計画中だ。武松は、「学生にもクリエイターが成長する体験や、成長する場を積極的に提供していく考えです。そうすることで、最初に使うカメラにLUMIXを選んでもらいたい」と言う。

Vook 代表取締役 岡本俊太郎/1988年生まれ。上智大学経済学部卒業。学生時代に動画コンテスト立ち上げ、その後、株式会社アドワールを創業。https://vook.co.jp
Photo by Natsu Tanimoto

ワークショップのプログラムは、映像制作のサポートサービスのプラットフォームである「Vook(ヴック)」が担当している。Vook はLUMIX BASE TOKYOの検討初期段階からプロジェクトに参画しており、展示している他社製品の選定も手掛けている。Vookの代表取締役、岡本俊太郎は、「すばらしい場所がついに完成したので、これからワークショップを定期的にやっていく。人を入れる方法も含めて、コロナ禍、アフターコロナの時代にできることを探っていきたい」と語る。ワークショップは、PCやジンバル、照明といったカメラの周辺機器を扱うメーカーと協業しながら進めていく計画だ。

スタジオでもアトリエでもなく、基地という意味を込めて名付けたLUMIX BASE TOKYO。武松は、「クリエイターのための場所という意味を込めてベースとした。ここに集うクリエイターが、より自分たちの場所と思えるネーミングです」と言う。庄司は、「クリエイターを奮い立たせるような場所でありたいですね。クリエイターとLUMIXが対等な関係で、一緒に高めあっていく感覚を持ってもらえたら」と続ける。20周年を迎え、クリエイターが集い、出会い、交わる受け皿を設けたLUMIX。新拠点をベースに、クリエイターのパートナーというポジションの構築に向けて動き始めている。(文/廣川淳哉)End

Photo by Natsu Tanimoto

LUMIX BASE TOKYO https://lumix-base.jpn.panasonic.com