三井化学グループのオープンラボラトリーMOLpが
「Neo “PLASTIC”ism(新造形主義)」をテーマに東京・青山で展示会

MOLp(モル)は「感性からカガクを考える」をテーマに、三井化学グループの有志が活動するオープンラボラトリー。好評を博した2018年の展示会の第2弾として「Neo “PLASTIC”ism(新造形主義)」をコンセプトに、7月13日〜17日まで東京・青山で「MOLpCafé2021展」を開催する。そこで披露するのは、同グループが約100年以上にわたって培ってきた素材や技術の価値を身近なプロダクトに昇華させた試みの数々だ。ここではMOLpのメンバー、三井化学の松永有理と宮下友孝、クリエイティブパートナーであるエムテドの田子學に展示のコンセプトやプラスチック素材の未来について聞いた。

▲壁に取り付けるコートハンガー。左は太陽光(紫外線)が当たると模様が浮かび上がる、調光メガネレンズの素材SunSensors™を用いたもの。右は植物由来のウレタン新素材スタビオ®によって、落ち葉を封じ込めている。Photos by Sayuki Inoue

なぜMOLpという活動が始まったのか

部署の垣根を越え、有志で構成されるMOLp。クラブ活動のような自由な雰囲気のなかで、素材や技術の「機能的な価値」や「感性的な魅力」を再発見し、多くの人とシェアすることを活動の目的にしている。

これまで活動の成果をミラノサローネやインテリア ライフスタイル リビング展、自社主催のMOLpCafé展で発表してきた。完成した物を販売することもあるが、製品をつくることが目的ではなく、アイデアやヒントをもとに外部の人と協働し、生活の質の向上とイノベーションの可能性を開くことを目指しているという。

▲三井化学 ESG推進室 気候変動・プラスチック戦略グループの松永有理(まつなが・ゆうり)

MOLpの活動を発案し、立ち上げた理由について松永は語る。

「私たちの扱う商材は、『つぶつぶ(プラスチックの原材料であるペレット)、液体、ガス』といった抽象的なもので、どのようにその魅力や価値を人に伝えればいいか、悩んでいたことがきっかけでした。また、組織は縦割りで横の連携が少なく、研究者は扱っている素材が、どのくらいの温度で軟化したり、どの程度の強さかといった数値やディテールに視点が向かいがちです。それは重要ではあるものの、それだけでは素材や技術の広がりも、新たな顧客層を獲得することも難しいと感じていました。あるとき『デザインマネジメント』(日経BP)という本を読み、デザインには意匠やコンセプトを通じて人とコミュニケーションする機能があることを知り、そのコミュニケーション力が未来を開くきっかけになると直感したのです」。

▲エムテドの代表取締役、アートディレクターでデザイナーの田子學(たご・まなぶ)

物とコミュニケーションを図る方法

『デザインマネジメント』の共著者のひとりであるデザイナーの田子をクリエイティブパートナーとしてMOLpに招き入れ、2015年に活動はスタートした。

最初に田子がメンバーに話したのは、「足でデッサンを描くこと」だった。「デッサンは、物とコミュニケーションする最たる方法で、社会を生き抜くために必要な要素がたくさん詰まっています。例えば、りんごを描くときに一方向から凝視しているだけでは、上手く描くことはできません。りんごの花弁が5つなのからもわかるように、5心皮(しんぴ)性なので、五角形が基本になっていることを理解して描くと、絵の質は格段に変わるのです。さらにりんごの周りを歩いて、角度を変えて見ることで新たな気づきや発見がある。対象から注目すべき要素を抜き出し、残りは捨て去ること、つまり物事を抽象化したり、営業は足で稼げと言いますけれど、足を使って多角的に物を見ることで、本質をつかみ取ることができる。物とのコミュニケーションにおいて、この2つが重要なカギになります」。

▲三井化学のロボット材料事業開発室 主任部員の宮下友孝(みやした・ともたか)

MOLpのメンバーは、そのコミュニケーションの方法を使って自社の素材や技術を抽象化し、多角的に見ながら気づきや発見を抽出し、定例会に持ち寄って共有する。相手の気づきに対して自らのできることを名乗り出る。自ずとチームが生まれプロジェクトが発展していく。そして、チームごとの成果を月に1度発表し、意見を交換し合うというのが活動の流れだ。

メンバーの宮下は言う。「発表会は、『開封の儀』のようなイベント的要素があります。箱を開けた瞬間にウワーっと盛り上がる場合もあれば、何かが足りないとウ〜ンと唸って静かになってしまう。いずれの場合も、次回までにメンバーをさらに驚かせたり、感動させたりするようなものをつくろうと頑張る。それを繰り返すうちに、みんなの士気がだんだん高まっていくのです」。

▲海水から抽出したミネラル成分でつくった、熱伝導プラスチック「NAGORI」。質感の良さに加えて抗菌性もあることがわかり、大理石のようなヒヤリとして触感を持つマウスを今回発表する。

▲地域に眠る廃棄物を混合させたトレイ。鼻をトレイに近づけると、ほのかにコーヒー豆やお茶の葉の香りがする。

コンセプトは、「Neo “PLASTIC”ism(新造形主義)」

MOLpCafé2021展のコンセプトは、「Neo “PLASTIC”ism(新造形主義)」。1920年代にピエト・モンドリアンが唱えた思想がヒントになっている。写実ではなく、いろいろなものを削ぎ落とし抽象化することでリアリティ(本質)が見えてくるというものだ。偶然にも「PLASTIC」という言葉が入っていたことも決め手になった。

田子は言う。「当時は次なる近代産業の時代に向けて、物事をいかに抽象化しシンプルに思考するかが求められていました。現在も、何が起きるかわからない混沌とした複雑な時代のなかで、求められているのは本質です。当時の思想の意義を今、改めて見直すことが必要ではないかと思ったのです」。

▲田子がリデザインし、生まれ変わった「FASTAIDウイルス・スウィーパータオル」。「PUSH」の部分を押すと、圧縮タオルに次亜塩素酸ナトリウム水溶液が染み込む。

キーワードのひとつは「Survive/今」

Neo “PLASTIC”ism(新造形主義)のコンセプトのもと、さらに2つのキーワードを設けた。ひとつは「Survive/今」で、コロナウイルスや気候変動による災害への適応といった課題解決のためのプロダクトだ。「FASTAIDウイルス・スウィーパータオル」は、以前にMOLpでつくった「FASTAID」を発展させたもので、災害時に向けた2in1パッケージの携帯用衛生タオルである。災害時だけでなく、キャンプのような日常的なサバイブの状況にも活用でき、2in1パッケージという機能は化粧品のような他分野での活用も考えられるだろう。

▲おじさんの周波数だけを特定してカットする「/OF(スラッシュオブ)」パネル。MOLpCafé2021展の会場で体感できる。

同じく「Survive/今」のもと開発された「/OF(スラッシュオブ)」パネルは、素材と音の関係に着目する研究者の発案から生まれたプロジェクトで、コロナ禍で変化するワークスタイルに向けた提案だ。

「オープンスペースで打ち合わせをしているときに、遠くのおじさんの声は耳についてうるさいよね(笑)、という話が雑談のなかで出て。周波数を調べてみると低音領域の500ヘルツ。技術を使って、おじさんの声の周波数500ヘルツをカットするパネルをつくれたらいいよねと、半分冗談のような会話から生まれました」と宮下は言う。そのパネルは、「/OF:スラッシュ・おじさん・フリークエンシー(周波数)」というユーモアにあふれる名前がつけられた。

▲柄がすべて異なる、フレコンをアップサイクルした「RePLAYERトートバッグ」。

サスティナビリティをテーマにした「beyond/未来」

「beyond/未来」ではサスティナビリティに重点を置き、素材メーカーが手がけるアップサイクルプロジェクトとして「RePLAYER」を開始した。そのなかに「フレコンのアップサイクル」がある。フレコン(フレキシビリティ・コンテナー)とは、プラスチックの原材料であるペレットを入れる物流用の大きな袋であり、繰り返し使用できる強度と耐性に加え、補修ができるという機能性も備えている。MOLpでは、15年間使用したフレコンをバッグやウォレットにアップルサイクルし、MOLpCafé2021展での販売を予定する。

さらに、そのバッグの購入者に対し、バッグの情報を代々記録していくNFT(非代替性トークン)によるブロックチェーン・トレーサビリティの仕組みを導入し、より長く愛してもらえるプラスチック素材のロングライフ化と新しい価値取引の形を提案する。

▲「POLYISM:SWP照明」。茶色のパネルは、通常染まらないポリオレフィンを柿渋染めにしたもの。

「POLYISM:SWP照明」も「beyond/未来」のキーワードのもとでつくられたものだ。SWPとは、紙のような繊維状の合成パルプで、粘性を高めるために塗料に混ぜたり、エンボス加工に優れるため書籍の装丁に使用されたりしている。MOLpでは、熱溶着した部分が透明になったり、硬化すると構造体になるという点に着目し、和紙のような情緒を感じさせる照明を生み出している。

シェード部分はSWPを折って組み立て、電球を固定する部分は3Dプリンタで出力するというように、DIYのキットとして、これもMOLpCafé2021展での販売を予定する。「これからますますデジタルシフトしていくなかで、プラスチック素材による造形の可能性はさらに広がっていくのではないかと感じています」と田子は期待感を募らせる。

▲左から、松永、田子、宮下。開発ストーリーを聞いたのは、東京・汐留にある三井化学本社内のオープンスペース。Photos by Sayuki Inoue

MOLpCafé2021展では、そのほかにも多彩な作品や試作を発表する。今回の展示会にあたり、それぞれの想いを聞いた。

「昨年から2期メンバーが加わり、新生MOLpとして新たなスタートを切りました。展示会は、研究者が外部の人たちと交流できる貴重な機会なので、刺激を受けていろいろなことを感じ取って普段の業務や会社のメンバーにフィードバックしてほしいと考えています」(松永)。

「/OFパネルのように、普段、研究開発しているなかで面白そうな素材や技術が生まれたら、MOLpに持っていって見てもらおうという人が社内に増えてきました。社外の人たちにも自分もこんなものをつくってみたい、面白いことをやっている三井化学と一緒に仕事をしてみたいと思ってもらえたら嬉しいですね」(宮下)。

「プラスチックは、ロングライフデザインやトレーサビリティの仕組みを組み込んだり、情感をもたせたり、触感を楽しんだり、人の暮らしに寄り添えるものをつくることもできる。MOLpCafé2021展を通じて、プラスチックの可能性はまだまだたくさんあるということを多くの人に伝えていきたいと思っています」(田子)。

▲三井化学が世界トップシェアを有するメガネレンズ材料をアップサイクルした、メガネホルダー。

新たなイノベーションの誕生を願う

2018年のMOLpCafé展では、海水から生まれたプラスチック「NAGORI」がグッドデザイン賞ベスト100に選ばれたり、紫外線によって色が変わるバングルやボタン「不知火-SHIRANUI」を見てANREALAGEの森永邦彦が触発され、MOLpと協働して服をつくり、パリ・コレで発表して大きな反響を呼んだ。その後、FENDIとのコラボレーションにも発展した。

今回のMOLpCafé2021展で発表されるものも完成品ではなく、そこからアイデアやヒントを得てもらい、新たなイノベーションが生まれることをメンバーは願っている。企画やデザイン開発、デザイナーやクリエイターなど、クリエイションに関わる方はぜひ足を運んでいただきたい。会場にいるMOLpのメンバーに、気軽に意見や質問を投げかけてほしいという。詳細は下記をご覧ください。End

MOLpCafé2021展

会期
2021年7月13日(火)〜17日(土)10:00〜17:00
*13日は13:00~、17日は14:00まで
会場
ライトボックススタジオ青山&ギャラリー
事前予約制

https://peatix.com/group/10684070/events

入場
無料