昨今イベントの中止や延期が相次いでいますが、1月に開催予定だった「CES」や「東京オートサロン」もデジタル配信のみとなりました。参加体験型のイベントが盛り上がってきた風潮のなか、バーチャルでどれだけの情報や感覚を得ることができるのかを楽しみに、バーチャルオートサロンを訪れてみました。
バーチャル会場では出展者情報、車種情報にアクセスしながら、実際のブースを回っているかのように感じる工夫がされています。どこでもドアのように自分のタイミングで会場にアクセスできるのはとても便利ですし、たいていの情報は文字で得ることができました。
しかし、バーチャル会場では人の動きは全く読み取れず、臨場感や空気の流れを感じることができませんでした。実際の会場ではどこに興味が集まっているのか、人々がどのような反応をしているかといった、人をリサーチする面白さがあったと改めて気づきました。また、会場を歩くことで出展者との会話はもちろん、展示方法の工夫からこだわりを発見して楽しむといった、散策ならではの収穫がありました。
では、バーチャルによるカラーやテクスチャーの感じ方はどうだったでしょうか。リアルな展示物とバーチャル上の印象との違和感は小さいものの、繊細なニュアンスカラーや質感を読み取るのは難しく、リサーチという目的での狙いは満たされませんでした。身近なところでは、AR試着やメイクシミュレーションツールで選んだ物を実際に購入すると想像と違った、という経験に似ているのではないでしょうか。
大学などで3Dの触力覚技術によって感触やテクスチャーをバーチャル表現する研究がされているそうですが、子どもの間ではオリジナルバーチャルスライムをつくるゲームが人気のようです。実際に材料をそろえずともデザインパターンを無限につくることができ、音による感覚も楽しめる点が魅力とのこと.私もバーチャルスライムをつくってみました。最初は色やテクスチャーを選ぶ楽しさや視覚による質感を感じることができましたが、混ぜ方や分量によって変化する「手ごたえ」をつかめない物足りなさが残りました。そこで、手を動かして実際のスライムをつくってみました。実物の創作では水分量や温度による硬さの変化や音を肌で感じることができ、失敗と成功の“手ごたえ”が次のアイデアにつながりました。
スライムに限らず、リアルなものには物理的な制限によって生まれる緊張感やつくり手のこだわり、周囲環境による偶発的な神秘性が存在すると感じます。実際に見て触れた感覚や記憶があるからこそ、バーチャルなデザインを楽しめるのだと実感しました。
私たちはCMFのリサーチだけでなく、発信していくことの難しさを改めて感じています。デジタルをうまく使いながらも、リアルなものを通して生まれる会話やヒント・人とのつながりを大切にしながら、カラーの魅力を発信していきたいと考えます。