NEWS | サイエンス
2020.10.28 15:30
武蔵野美術大学教養文化・学芸員課程研究室の細将貴准教授、統計数理研究所の島谷健一郎准教授の研究グループは、野生動物における特定の天敵からの捕食圧の大きさと、その捕食圧に対する自切の防御効果を定量する手法を開発したことを発表した。
動物は野外で何が理由で死ぬのかとか、巧みな擬態や頑丈な殻といった防御形質が天敵から身を守るのにどの程度役に立つのかといった、素朴な問いに答えるのは簡単なことではないとされる。多くの場合、死体は速やかに消失し、死因に関する情報は消えてなくなり、成功した防御の記録もどこにも残らないからである。
ただ、一部の動物では、天敵から襲撃を受けながらも生き残ったことを示す痕跡がしばしば外見に残されるそうで、修復された貝類の殻や、欠けたチョウの翅、生え変わったトカゲの尾などは、特定の天敵からの襲撃を防御することに成功した証拠となりうるという。
そこでこの研究では、標識再捕獲法による野外調査と室内での捕食実験で得られたデータ群を、階層モデルによって統合。獲物の外見に被食痕を残す特定の天敵との遭遇頻度や、全死因に占めるその天敵の捕食による死亡の割合を推定する手法を開発した。
今回は、西表島と石垣島に生息し、イワサキセダカヘビという天敵の襲撃に対して「しっぽ(腹足の先端部)」の自切で防御するイッシキマイマイというカタツムリにこの手法を適用。
このヘビとの遭遇確率が月間3.3% (95%信用区間:1.6%–4.9%)、成熟までの死因に占めるヘビの捕食による死亡が43.3%(15.0%–95.3%)、自切能力によって上乗せされている適応度が6.5%(2.7%–11.5%)と、それぞれ見積もることができた。
そして、以上のことから、イッシキマイマイはイワサキセダカヘビから強い捕食圧を受けており、この種が自切行動や殻形態の変形によってその襲撃を専門的に防いでいることには合理性があると推定。こうした殻形態の変形はイッシキマイマイの近縁種にも見られるので、これらのヘビとカタツムリの間には、先祖代々、緊密な捕食・被食関係があったものと推測されるそうだ。