ル・コルビュジエ作品唯一の動く建築「アジール・フロッタン」
パリセーヌ川で復活

近代建築の巨匠 ル・コルビュジエがリノベーションを手がけ、弟子の日本人建築家・前川國男が担当したコンクリート船「アジール・フロッタン(=浮かぶ避難所)」が、2020年パリで復活を果たした。

日本建築設計学会ル・コルビュジエの船再生委員会と公益財団法人国際文化会館は「アジール・フロッタン復活プロジェクト」を推進しており、2020年10月19日(月)に、2018年の増水でパリ・セーヌ川に沈んだ「アジール・フロッタン」の引き上げに成功した。

▲ セーヌ川に浮かぶアジール・フロッタン (c)スターリン・エルメンドルフ撮影

この「アジール・フロッタン」は、第一次世界大戦後のパリ市内にいた難民の避難所で、もとは石炭を運搬するコンクリート船だった。救世軍の依頼により1929年に同氏によってリノベーションが行われ、1995年までさまざまな難民のために使われ続けてきたという。

▲ 2018年の増水により水没

その後、老朽化により幾度も廃船の危機を迎えるが、2006年にはパリ在住の有志5人が救世軍から船を譲り受け、補修工事がスタート。2008年には建築家・遠藤秀平による工事用シェルターの設計、2017年には再生プロジェクトが始動し、日本企業による桟橋の寄贈が進められてきた。

しかし、2018年2月のセーヌ川の増水により、船体が水没。そして、このほど船体の引き上げが行われた。

ル・コルビュジエは1929年の改修の際、箱型の船体に柱と屋根、水平窓を加える増築を行い、近代建築の理想型としての内部空間を実現。同氏が提言した「近代建築の5原則」を体現するもので、代表作「サヴォア邸」の設計に先立つ建築史上重要な作品だそうだ。

▲ 2020年10月19日、無事再浮上実現

また、当時最先端の技術が搭載されていた客船や飛行機、クルマなどに着目していたコルビュジエが手がけた唯一の「動く建築」としても注目されている。

今後は引き上げた船体の補修と内部の修復を行い、ル・コルビュジエのオリジナルデザインを復元した文化施設として再生するそうで、2022年秋の公開を目指している。End

▲ 遠藤秀平