フィンランドの森を感じるパビリオンが大使館に出現
個人個人が森を支える仕組みとは

東京・南麻布のフィンランド大使館の敷地内に、2021年末までの期間限定で「メッツァ・パビリオン」がオープン。来年の東京オリンピック開催期間には選手や関係者らを中心にした交流拠点になり、この10月から一般公開のビジネスや文化イベントも始まった。木造2階建の一見シンプルな建物の中には針葉樹の香りが漂い、ここにはフィンランドの人々とは切っても切り離せない「Metsä(メッツァ、森)」と、デジタル化による効率的なテクノロジー社会の関係が凝縮されている。

▲フィンランド大使館内の既存のガレージ上に増築された「メッツァ・パビリオン」。すべて単板積層材のプレハブパーツを組み合わせ、構造そのものは約2週間で組み上げたという。©Petri Asikainen for Business Finland

国土の75%が森に覆われているフィンランド。日常的にベリー摘みやキノコ狩りをしたり、湖で泳いだりと自然との距離が近い一方で、ノキアに代表されるようなデジタル先進国であり、最先端技術を使った循環経済がうまく機能している国でもある。彼らは手つかずの森の恩恵を受けるだけではなく、テクノロジーを生かして森を大切に育て、木材やパルプといった産業を自国を代表するものに育て上げている。

森を大切に育てながら、計画的に利用する

パビリオンの建設を担ったメッツァ・グループは、そんなフィンランドの森林産業のリーディングカンパニー。グループ内のメッツァ・ウッドによる「Kerto® LVL」という積層材を使って、このパビリオンは建てられている。メッツァ・ウッドの株主にはフィンランドの森の所有者約10万人が名を連ね、その多くは個人だという。フィンランドでは一家で森を財産として所有し、数世代にわたって管理するという意識が根づいているそうだ。伐採した本数以上を植林しなければならないという決まりがあるため、森は常に育ち続けているのだ。そして、木々はすべてデータ管理され、この木が誰のものであって、どのくらい育っているか、伐採するタイミングも割り出されているというから驚きだ。

▲寒くて日が短い北方でゆっくりと育つ木々は、年輪が詰まっていて質が高い。木材として使われるのは、真っ直ぐに伸びる針葉樹林のトウヒや赤松。パビリオンの建材には、フィンランド最大の湖水地方であるプンカハリュにある森の樹齢80年の木々が使われている。©️ Metsä Group

伐採した木はまるごと有効利用され、どの部分も捨てることはない。木材にはならない枝の先端部は燃やしてメッツァ・ウッドの工場があるロヒアの町全体の暖房になり、工場ではバイオエネルギーが使われている。フィンランドの公共交通機関のエネルギーも、木材の端材を燃やしたバイオエタノールで賄われているという。

2週間でパビリオンが組み上がるプレハブシステム

パビリオンの設計はフィンエアー本社やユヴァスキュラ空港も手がけた建築家のペッカ・ヘリン、構造計算を含むデザインは、アインス・グループが担当。林業が成功しているフィンランドでは、建築における構造計算も進んでいるのだという。また、大型パーツを工場で加工し、現地で組み立てる、効率的なプレハブ工法が進んでいる。

▲パビリオンの素材は、構造からすべて「Kerto® LVL」という単板積層材。柱や壁など現地で組み上げたパーツをボルトで固定する仕組みで、10回まで再構築ができる。Photo by Sanae Sato

今回のパビリオンは、既存のガレージの上に増築されたような形式をとる。スライスした木材を重ね、強度のある積層材「Kerto® LVL」からできた大きなパーツをフィンランドから運び、わずか2週間程度で組み上げたという。パーツをボルトで固定するのみで、コンクリートは一切用いていない。この工法はパビリオンよりさらに大きな地上6〜8階の建物まで応用可能で、解体して再構築することも10回までできるという。コンクリートが固まるまで待たなくて良いため工期が早く、木材が二酸化炭素を吸収するためカーボンニュートラルでもある。

▲パビリオンのインテリアデザインを手がけたのは、アルテックやマリメッコで活躍してきたウッラ・コスキネン。2階のデッキ部分には、ウッドノーツのビーンバッグチェア、ニカリの椅子やメイド・バイ・チョイスのテーブルやベンチが並ぶ。Photo by Sanae Sato

メッツァ・ウッドでは、プレハブパーツのデザインをすべて無料公開している。オープンソースにすることで、中小企業にも競争力がつき、業界全体が盛り上がっていくと考えているからだ。また、建築家や構造エンジニアによるデザイン公募も広く求めており、専門家のレビューとともに報酬を用意しているという。

フラットでオープンな仕組みのなかでアイデアをシェア、テクノロジーを駆使して効率的に仕事をし、余暇は自然を身近に感じながら豊かに暮らす。メッツァ・パビリオンを訪れれば、そんなフィンランドを肌で感じることができるはずだ。

11月21日(土)、22日(日)には、パビリオン内でフィンランドへの旅行気分を味わえるオープンハウスイベントを予定。また、日本で人気が高まっているフィンランドのスポーツ「モルック(mölkky)」などを体験できるイベントなども企画されているほか、日本初上陸の「アークティック ブルー ジン」のバーもオープンするのでお楽しみに(イベントはすべて事前登録制)。End

▲「アークティック ブルー ジン」のバーもオープン予定。©️ Business Finland