関坂達弘は、300年の歴史を誇る福井県鯖江市の漆器メーカー、セキサカ(旧関坂漆器)の12代目。直営店のリニューアルや「SEKISAKA」ブランドの立ち上げ、オリジナル商品の開発、自社企画イベント「ataWlone(アタウローネ)」の開催など、新しい試みを積極的に取り入れて会社の刷新を図っている。近年、若い世代を中心に移住者が右肩上がりに増えている鯖江市の現状や、ウィズコロナ時代を迎えた今、考えていることを聞いた。
伝統工芸が息づく、鯖江市河和田地区
1701(元禄14)年創業のセキサカの本社は、福井県鯖江市の河和田地区にある。人口4,000人ほどの小さな町だが、周辺地域には越前漆器、越前和紙、越前打刃物、越前箪笥、越前焼、眼鏡、繊維にまつわる多様な会社や工房が多数点在する。セキサカは、木製漆器製造会社として創業し、関坂の祖父の代に事業の軸を木製漆器から業務用プラスチック製食器の企画・製造・卸にシフトし、ほかに業務用食器のOEM製造、木製漆器の卸・製造・販売、小売業を展開してきた。
関坂は福井県内の普通科の高校を卒業し、東京の大学に入学。その90年代末当時、デザイン界で起こったミッドセンチュリーブームや、TOKYOポップカルチャーのファッションや音楽に刺激を受け、クリエイティブな世界に惹かれていった。大学在学中は陶芸部に所属してものづくりを体験し、バックパッカーの旅で各国の建築やデザインを見て回った。
卒業後、金沢国際デザイン研究所(KIDI)プロダクトデザイン科に入学し、さらにオランダのデザイン・アカデミー・アイントホーフェンに留学。デザイナーを目指していたのではなく、デザインに携わる仕事ができればと漠然と考えていた。帰国後は東京のグラフィックデザイン事務所で働いた。それまで家業に興味をもったことも、福井に戻るつもりもなかったが、次第に会社の規模が縮小し、両親が高齢になるのを目の当たりにし、自分がやらなければと決意を固めた。
復興支援から、地域の伝統産業を応援する活動へ
関坂が地元の鯖江市河和田地区に戻ったのは、2014年。若い世代の移住者が増え、様変わりしていた。その発端は、2004年7月に起こった豪雨災害だという。町は壊滅的な状態に陥り、その復興支援のために京都精華大学を中心に全国の大学生が集まった。
そして、復興支援を通じて、この地の伝統産業に魅力を感じた若者たちによって、「河和田アートキャンプ」という活動が生まれたのである。大学の夏季休暇を利用して古民家で共同生活を送りながら、職人から技術を教わったりアート作品をつくったりと、地元の人々と協働で地域づくりに取り組むプロジェクトが毎年行われるようになり、やがて移住する人が現れ始めた。
河和田アートキャンプの活動をしていた人の中から、2013年にクリエイティブカンパニーのTSUGI(ツギ)が生まれ、工房見学を行うRENEW(リニュー)というイベントを2015年より毎年開催。各地から多くの人が集まり、昨年は2日間で延べ約3万人を動員した。さらにTSUGIの活動に惹かれて移住する人や、漆器や眼鏡関係の会社や工房に就職する人や職人に弟子入りする人も。地方の人口減少が問題になっているなかで、鯖江市の人口は近年、20代後半から30代を中心にゆるやかに増加し続けている。
ものづくりに興味をもつ若い世代が町に増えたことが、関坂にとって追い風となった。これまで学んだデザインの考えと、各国を回っていろいろなものを見て培ってきた独自の視点を軸に自社の改革に取り組み始めた。
自社店舗の改革と、オリジナル商品の開発
その改革のひとつがセキサカの直営店である。それまでは年齢層の高い層に向けた漆器専門店だったが、建物を改修し商品ラインナップや見せ方を変えて「ataW(アタウ)」として再オープンした。自社製品の漆器をはじめ、福井県内の製品や作家作品、国内外のデザイナーや作家による個性豊かなものが並ぶ。
商品の選定基準は背景にあるストーリーや独自の視点、製作過程、手法に焦点を当てており、必ずしも機能的なものとは限らない。情感を揺さぶるもの、驚きや気づきを与えるものを中心にセレクト。その考えはオランダの学校で学んだ教育思想に影響を受けたという。バウハウスの「形は機能に従う(Form follows function)」ではなく、「形は気持ちに従う(Form follows feeling)」というものだった。「ものづくりに携わる人たちを触発したりヒントを与えたり、お店に訪れる人が気づきや発見に出会えるようなものを提供していきたいと考えています」と関坂は語る。これまでの客層は高齢者が中心だったが、リニューアル後は20代〜60代と幅が広がった。
もうひとつの改革が、外部デザイナーと地域の伝統工芸の素材や技術を用いて新しいものを生み出すことを目的とした、オリジナル商品の開発である。2017年にジャパンクリエイティブに参加し、インダストリアル・ファシリティと共に「STORE」を協働して開発したことをきっかけに、「SEKISAKA」ブランドを立ち上げた。現在はOy(オイ)やMUTE(ミュート)を中心に、欧州の若手デザイナーも加えて新たな開発を進めているところだ。2018年からはRENEWに合わせて自社企画イベント「ataWlone」を開催し、複数人のクリエイターと伝統工芸をマッチングさせ、産地の技術を通してデザインの価値や可能性を探求する実験の場・発表の場もつくってきた。
オリジナル商品を充実させて「SEKISAKA」ブランドを強化していこうと考えていた矢先、2020年春に新型コロナウイルスが世界中に蔓延する事態が起こった。ataWの売り上げはコロナ前後変わらずに黒字だが、セキサカの主力製品であるプラスチック製の業務用食器は学校や病院のほか、機内食や飲食店でも使用されることから、飛行機や外食利用の低下により大きな打撃を受けている。
ウィズコロナ時代を迎えて
河和田地区の伝統工芸の工房は、これまでも職人の高齢化や後継者不足といったさまざまな問題を抱えていたが、コロナで仕事が激減し、追い打ちをかけられた状態となった。「以前もリーマンショックなどがありましたが、みな口を揃えてここまでの状況は今までに経験したことがないと言っています。何もしなければ、ただただ事業が縮小していくのが目に見えている。まだ体力のある今のうちに新しい事業を考えたり、新製品を出していくことで、一歩でも前に進んでいかなければと思っています」と関坂は言う。
河和田地区にある工房のなかには、インスタグラムを活用して作業風景や制作したものを発表することで、新規の仕事が生まれたケースがあるなど、それぞれが打開策を模索している。
「耐えなければいけない厳しい時間ではありますが、足元を見つめ直す時期でもあり、生まれ変わりのいいタイミングなのかもしれません」と関坂は語る。
現在は、忙しくて手付かずだった業務用の自社製品を取捨選択して整理しながら、オリジナル商品の開発も継続している。今までは外部デザイナーらと業務用プラスチック製品の素材や技術を用いて製作してきたが、昨年より自社の出発点となった木製漆器の製造技術を活用したプロダクトの開発も進めている。デザインを学び、さまざまな世界を見てきた関坂の視点を通して開発される、SEKISAKAブランドの新たなプロダクトの発表を心待ちにしたい。また、今年はataWloneの開催は見送り、「Re:RENEW」のイベントにOyやMUTEによる新作のプロトタイプとデッドストックの漆器販売を行う予定だという。詳細は下記にまとめておく。
Re:RENEW
工房見学やワークショップを通して、ものづくりを「見て、知って、体験する」体感型マーケット。漆器・和紙・打刃物・箪笥・焼物・眼鏡・繊維と7つの地場産業が集積する福井県丹南エリア(鯖江市・越前市・越前町)で開催。
開 催 日:2020年10月9日(金)~11日(日)
総合案内:うるしの里会館(福井県鯖江市西袋町40-1-2)
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関坂達弘(せきさか・たつひろ)/セキサカ代表取締役。1980年福井県生まれ。2002年成蹊大学文学部英米文学科卒業。2004年金沢国際デザイン研究所プロダクトデザイン科卒業、2007年オランダのデザイン・アカデミー・アイントホーフェン(DAE)のMan&Well-being科卒業。帰国後、2009年〜2014年株式会社ノーデザインに勤務。2014年セキサカ(旧関坂漆器)に入社し、2019年代表取締役に就任。自身でプロダクトや家具もデザインする。「All About Hanging」の家具はDAEの選抜作品になり、ミラノサローネに出展(2008)した。
株式会社セキサカ
福井県鯖江市片山町3-53
Tel: 0778-65-0009
Fax: 0778-65-2340
E-mail: mail@sekisaka.co.jp
ataW(直営店/セレクトショップ)
福井県越前市赤坂町3-22-1
営業時間: 11:00〜18:00
定休日: 水曜日、木曜日、年末年始 (定休日の祝日は営業)
Tel: 0778-43-0009