3月にこの欄の記事を書いたのち、姿をくらまし、次の出方を考えているうちに、半年がたってしまった。
4月に緊急事態宣言が出て、自分の中では「家を片付ける、いい機会」ぐらいに思っていたが、実際は、相当、不安だったようだ。何度も書きかけた文章を今、読み返すと、「自分だけでなく、日本中、世界中が変わってしまう恐怖」に怯えていたことがよく分かる。
そして、未知の疫病に関する情報が少しづつ蓄積され、4月、5月には考えられなかった普通の生活をしている。とはいえ、まだまだ、感染には気をつけなくてはいけないし、経済も戻っていないが、展示会(*)などを行うと「好きなことをする」「好きな場所にいく」「好きな人に会う」ことを、人々が精神的に望んでいることがよく分かる。
そして、10月8日(木)からは、東京・六本木のリビング・モティーフにて、今年で6回目となる「日本の道具展」が始まる。毎年、わたくし日野が、「リビング・モティーフというお店の中で見ていただきたい」と思いながら選んだ品物が並ぶこの展示会。今年のテーマは「暮らしの景色をつくるもの」。期せずして、暮らしを見直す人が多くなった今。日々の生活に彩りを与えてくれる品々が並ぶ。
と、いうことで、二回に分けて、恒例の作り手を紹介する。
つちや織物所(奈良)
昨年、コースターや鍋つかみをご出展いただいたつちや織物所さん。
今年は、アイテムを広げて、ご登場いただきます。土屋さんは工房で織った布の他、自らが気に入った機屋さんの生地を使っているが、何よりも大切にしていることは「質感」。常に触るわけではないティッシュカバーや弁当箱包みも、いつまでも触っていたくなるほどの優しい質感だ。そこに、布ならではの“気配”や“佇まい”が相まって、唯一無二の存在感が感じられる。
土屋さんは自ら「木綿手紡ぎの会」を主催する。
9月のある日、工房にお邪魔して、木綿畑に連れて行っていただいた。
「材料を育てる」ことは、並大抵ではない。布を愛する人だからこそできる、途方もない仕事だ。(筆者はお試しで、雑草取りをするだけで、へばってしまった)自家栽培の木綿で織った生地は“奈良テキスタイル”という別ブランドを立ち上げている。(値段もスペシャルだが、うっとりする質感だ)
高橋つづら店(茨城)
つくば市で、今時、珍しい“つづら”を作っている高橋つづら店を営む高橋諭さん。
手に職を目指して、の脱サラ組だが、目指したのは日本に2軒しかないという「つづら」職人。つづらは、お客様から注文を聞き、サイズや仕様を設定したのち、ボディーとなる竹籠の部分を専門の職人に依頼。竹の箱が出来てきたら、下地となる和紙を貼り、漆の代用として使用される塗料”カシュー”で塗装する。(昔は漆だったが、塗る面積も多いので、今はカシューが一般的)「ボディー部分を人に委ねる」ことは、「ボディーとなる竹籠が出来ないと、仕事ができない」ことを意味する。そこで、師匠に、竹編み職人を紹介してもらい、その技術も同時進行で習得したとか。今では、師匠に依頼された竹籠を納める仕事もしている。
伊万里陶苑(佐賀)
佐賀県、伊万里の伊万里陶苑。
一般的にイメージする伊万里焼きは、骨董で見かける色鮮やかなものだが、伊万里陶苑を代表するシリーズ「三島手」は、陰刻の焼き物の「三島」を図案化したモダンなテイストだ。これをデザインしたデザイナー岡本榮司は、長崎県窯業指導所のデザイン科にいた人物。(在籍の時代考証からすると、森正洋さんの在籍時期と重なる)
伊万里の実業家、金子定が、高度経済成長の中、質より量に製陶業が傾くことを憂いていた陶芸家・澤田痴陶人(大英博物館で回顧展が行われた人物)に賛同し、1968年に、伊万里陶苑を設立。この痴陶人が白羽の矢を建てた人物が岡本榮司だ。三島のシリーズは20以上の皿、鉢、カップ、ポットなどがあるが、同じデザインで、白マット、青マットという印象的な釉薬でも作られていた。今回は白マットのシリーズの普段、作っていないアイテムを特別に作ってもらった。
日本の道具 くらしの景色を作るもの
- 会期
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2020年10月8日(木)〜11月10日(火)
*10月30日(金)は臨時休業 - 会場
- 東京・六本木 リビング・モティーフ1階
- 詳細
- https://www.livingmotif.com/news/200925_05
めしわん 300展
- 会期
- 2020年9月26日(土)〜10月4日(日)
- 会場
- 小田原 「うつわ菜の花」
- 詳細
- http://utsuwa-nanohana.com/?p=3086