今年で6回目「日本の道具展」に登場する作り手を紹介します【前編】
つちや織物所(奈良)|高橋つづら店(茨城)|伊万里陶苑(佐賀)

3月にこの欄の記事を書いたのち、姿をくらまし、次の出方を考えているうちに、半年がたってしまった。

4月に緊急事態宣言が出て、自分の中では「家を片付ける、いい機会」ぐらいに思っていたが、実際は、相当、不安だったようだ。何度も書きかけた文章を今、読み返すと、「自分だけでなく、日本中、世界中が変わってしまう恐怖」に怯えていたことがよく分かる。

そして、未知の疫病に関する情報が少しづつ蓄積され、4月、5月には考えられなかった普通の生活をしている。とはいえ、まだまだ、感染には気をつけなくてはいけないし、経済も戻っていないが、展示会(*)などを行うと「好きなことをする」「好きな場所にいく」「好きな人に会う」ことを、人々が精神的に望んでいることがよく分かる。

▲(*)9月26日(土)〜10月4日(日)まで、小田原のうつわ菜の花にて「めしわん 300展」を開催中。名物店主、高橋台一さんが10名。日野が10名、作家さんにお声がけして、めしわんがずらずらずらっと300点以上並ぶ会場は壮観です。

そして、10月8日(木)からは、東京・六本木のリビング・モティーフにて、今年で6回目となる「日本の道具展」が始まる。毎年、わたくし日野が、「リビング・モティーフというお店の中で見ていただきたい」と思いながら選んだ品物が並ぶこの展示会。今年のテーマは「暮らしの景色をつくるもの」。期せずして、暮らしを見直す人が多くなった今。日々の生活に彩りを与えてくれる品々が並ぶ。

と、いうことで、二回に分けて、恒例の作り手を紹介する。

つちや織物所(奈良)

昨年、コースターや鍋つかみをご出展いただいたつちや織物所さん。

今年は、アイテムを広げて、ご登場いただきます。土屋さんは工房で織った布の他、自らが気に入った機屋さんの生地を使っているが、何よりも大切にしていることは「質感」。常に触るわけではないティッシュカバーや弁当箱包みも、いつまでも触っていたくなるほどの優しい質感だ。そこに、布ならではの“気配”や“佇まい”が相まって、唯一無二の存在感が感じられる。

土屋さんは自ら「木綿手紡ぎの会」を主催する。

9月のある日、工房にお邪魔して、木綿畑に連れて行っていただいた。

「材料を育てる」ことは、並大抵ではない。布を愛する人だからこそできる、途方もない仕事だ。(筆者はお試しで、雑草取りをするだけで、へばってしまった)自家栽培の木綿で織った生地は“奈良テキスタイル”という別ブランドを立ち上げている。(値段もスペシャルだが、うっとりする質感だ)

▲奈良に、庭師とご主人と、素敵なお家に住まわれています。

高橋つづら店(茨城)

つくば市で、今時、珍しい“つづら”を作っている高橋つづら店を営む高橋諭さん。

手に職を目指して、の脱サラ組だが、目指したのは日本に2軒しかないという「つづら」職人。つづらは、お客様から注文を聞き、サイズや仕様を設定したのち、ボディーとなる竹籠の部分を専門の職人に依頼。竹の箱が出来てきたら、下地となる和紙を貼り、漆の代用として使用される塗料”カシュー”で塗装する。(昔は漆だったが、塗る面積も多いので、今はカシューが一般的)「ボディー部分を人に委ねる」ことは、「ボディーとなる竹籠が出来ないと、仕事ができない」ことを意味する。そこで、師匠に、竹編み職人を紹介してもらい、その技術も同時進行で習得したとか。今では、師匠に依頼された竹籠を納める仕事もしている。

▲つくばには直営店もあります。

▲自ら製作した竹のボディを触る高橋さん。「壊れたら、和紙を剥がして、体躯の竹籠に戻して、直すこともできます」と説明してくれた。

伊万里陶苑(佐賀)

佐賀県、伊万里の伊万里陶苑

一般的にイメージする伊万里焼きは、骨董で見かける色鮮やかなものだが、伊万里陶苑を代表するシリーズ「三島手」は、陰刻の焼き物の「三島」を図案化したモダンなテイストだ。これをデザインしたデザイナー岡本榮司は、長崎県窯業指導所のデザイン科にいた人物。(在籍の時代考証からすると、森正洋さんの在籍時期と重なる)

▲特別にブレンドした土に、わざと鉄粉を混ぜた釉薬をかけた、温かみのある<白マットシリーズ>。白と一口で言っても、色々な白がある。

伊万里の実業家、金子定が、高度経済成長の中、質より量に製陶業が傾くことを憂いていた陶芸家・澤田痴陶人(大英博物館で回顧展が行われた人物)に賛同し、1968年に、伊万里陶苑を設立。この痴陶人が白羽の矢を建てた人物が岡本榮司だ。三島のシリーズは20以上の皿、鉢、カップ、ポットなどがあるが、同じデザインで、白マット、青マットという印象的な釉薬でも作られていた。今回は白マットのシリーズの普段、作っていないアイテムを特別に作ってもらった。End

▲50年前にデザインされた「三島手」シリーズは通商産業省時代のGマークも取っている。

▲工場の規模は小さくしたが、今も熟練の職人が、その技術を継承している。

日本の道具 くらしの景色を作るもの

会期
2020年10月8日(木)〜11月10日(火)
*10月30日(金)は臨時休業
会場
東京・六本木 リビング・モティーフ1階
詳細
https://www.livingmotif.com/news/200925_05

めしわん 300展

会期
2020年9月26日(土)〜10月4日(日)
会場
小田原 「うつわ菜の花」
詳細
http://utsuwa-nanohana.com/?p=3086