当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。
“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。
今日のトピック
コロナ禍において、リアルイベントの中止を余儀なくされるなか、世界中でさまざまなオンラインイベントが行われました。最終回となる今回は、ファッション、アート、デザイン分野のイベントに着目します。
まずファッション業界では、7月27日から8月2日まで行われたHelsinki Fashion Week。このイベントは、ヘルシンキで2015年から6年間毎年開催されています。今年は「DIGITAL VILLEGE」というオンライン・プラットフォームを開設し、デジタル空間につくられたランウェイを3D化された衣装をまとったバーチャルのモデルが歩きました。Helsinki Fashion Weekは、元々サスティナビリティに力を入れており、パンデミックが発生する前から、2020年はイベント自体をオンライン化すると決めていたそうです。
アート関連業界ではArt Basel Online Viewing Rooms。世界の主要なギャラリーと、コレクターや芸術愛好家をネットワークでつなぐためのオンラインプラットフォームです。アート・バーゼル香港がコロナウイルスにより開催中止になったことをきっかけに、3月から5月の間に2回行われました。さらに、9月と10月にそれぞれ別のテーマで開催されます。出品作品の価格がすべて開示され、落札価格もすべて見られる点が特徴です。
また、世界最大級のフェスのひとつであるBurning Man。8月20日から9月6日まで行われています。これまでは米国ネバダ州にあるブラックロック砂漠で開催されていました。芸術、文化、教育、哲学、参加型、社会事業などのプログラムで構成されています。今年は「Kindling」というオンライン・プラットフォームを開設し、Burning Manがキュレーションしたイベントと、Burning Manと外部のコラボレーションで行われるイベント、外部が制作したイベントを見ることができます。これまでイベント会場に行くことができなかった人たちにとってオンラインイベントはとても貴重な機会となるに違いありません。
デザイン・建築業界では、英国のWebマガジンDezeenがVirtual Design Festival(VDF)を4月15日から7月10日までの86日間開催しました。コロナウイルスによって延期や中止となった世界中の見本市やフェスティバル約90件を補完、サポートし、業界の発展と、ビジネスをコロナ禍でも止めないための活動です。
VDFには、建築とデザイン業界の著名人やブランド、学芸員、アーティスト、学生など多種多様な関係者が参加しました。オンライントーク、レクチャー、ビデオメッセージ、新作発表などの記事が600件以上、86日間ほぼ毎日Dezeenに投稿されました。YouTubeに上げられた200以上の動画は3カ月間で合計200万回再生され、現在も無料で公開されています。VDFにコラボした団体は、Ventura Projects、Serpentine Galleries、Stockholm Design Weekなどそうそうたる顔ぶれです。3カ月間、これだけの規模の活動を途切れることなく継続するエネルギーと覚悟には本当に感服します。
建築家のレム・コールハースさんは、トークのなかで、G20加盟国の政府がコロナウイルスによる経済的打撃を支援するために使った資金、約9兆ドル(約954兆円)は、現状の気候変動問題を解決するのに十分な額であると発言しました。この発言をすることで、気候変動の問題を進展させるきっかけになるのではないかとコールハースさんは考えています。世界中がコロナウイルス対策を進めている中で、地球温暖化の問題にも着目している点に共感しました。
本連載の第1回で取り上げたStudioDriftによる「フランチャイズ・フリーダム」も、VDF内で企画された活動のひとつです。医療従事者をはじめとするコロナウイルスに苦しむ人々のために行われたパフォーマンスでした。
VDFは、デザイン業界におけるビッグアクションだったのではないでしょうか。クリエイティブ活動を継続していく力を強く感じさせられました。
VDFの企画から立ち上げまでのスピードと、企画の多様性、クオリティーの高さは見事です。ちょうどその頃、SPREADもVDFとミラノのデザイン・プラットフォームであるAlcovaのコラボレーション企画に参加し、Dezeenにインタビュー記事が掲載されました。
これからのデザインには、今できることを考え、コロナ禍前に「戻る」のではなく「進む」視点が大切です。何年か後にそれまでのクリエイティブ活動を振り返る時、これらのオンライン・イベントは人の記憶に残る象徴的なできごととして存在するはずです。引き続き世界中のアクションからエネルギーを得て、社会全体の活力を上げていきましょう!SPREADも一クリエイターとして社会に元気を発信していきたいと考えています。
連載を終えて
今回の100回目をもちまして、日刊「コロナとクリエイティブ」は終了です。このリサーチは、「コロナのパンデミックによりクリエイティブは社会とどう交わるのか?」の問いのもとに始まりました。毎日のように起こる活動を観測することは、今起きている状況を俯瞰して考察できるとともに、次の行動への糧となります。世界の各地域で起きた多種多様なアクションを知って、人々の逞しさを実感することとなりました。2020年8月現在、コロナの終息は一向に見えてきません。私たちは、この状況が続く限りリサーチを引き続き行っていきます。毎日更新の連載は未航海の大海原に出航するようなチャレンジでした。この連載を通して今後どのような繋がりが生まれてくるのか、現時点では定かではありませんが、読んでいただいた皆さん、ありがとうございました。今後、連載を終えてのまとめ記事を予定しております。お楽しみに。