当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。
“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。
yes! Yes! YESSS!
Denkbilder #46 ist unterwegs!Strengst limitiert. Als Zeitung. Als Plakat. Oder beides. Und ganz…
Denkbilderさんの投稿 2020年5月20日水曜日
今日のトピック
チューリッヒ大学ドイツ語ゼミ(Deutsches Seminar der Universität Zürich)が編集する学生新聞「Denkbilder(Thinking Pictures – 考えさせる絵)」の46号が5月に発行されました。通常は3月と11月の年2回、雑誌形式で発行され、構内にて無料で配布されますが、コロナ禍にあたり特別号として新聞形式となり事前予約をした学生など250人に1部5フラン(約580円)で販売されました。
SPREADはこう見る
今回の「Denkbilder」のテーマは「島」。コロナ禍の状況を抽象的に表現した、想像の広がる内容です。このテーマに合わせた公募作品の他、編集チームがさまざまなアートワークなどをピックアップして紹介しています。
新聞を開いてみると3ページ目にアンナ・ラーチャーさん(Anna Larcher)のエッセイ「 Inseltage (島の日々)」が掲載されています。所々に要点をまとめた1文が1本の曲線にそって配置されており、視覚的なアクセントになっています。
8ページ目には、アレクサンダー・エティスさん(Alexander Estis)の詩「Umgekehrte Inselbegabung(逆さまの島の才能)」とメレット・グットさん(Meret Gut )の文章「Steile Küsten(急な沿岸)」を紹介。それぞれ独特な文字組みは、ラーチャーさんのエッセイ同様、編集部によるものです。テーマである「島」から連想する波や浜辺などに見られる曲線をイメージしたそうです。
今回の発行は、印刷費用や、大学に学生が集まれない状況に配慮した結果ですが、新聞という媒体の選択は、公共性の高いコロナウイルスに関連する内容に適したものだと感じました。
「Denkbilder」を見て編集チームのデザインと社会性に対する考えの深さに驚きました。コロナウイルス流行を含め、社会全体の状況を「島」というテーマで捉え、実生活を俯瞰する試みを行なっているようです。この冷静な視点に、彼らの社会に対する関心の高さを感じます。作品の選定や一部の文字組みは編集部が行なっていますが、新聞全体のデザインはチューリッヒ芸術大学で美術とデザインを勉強する2人の学生が無償で協力しているそうです。プロの目から見ると気になる点はありますが、学生新聞とは思えないデザイン性の高さが伺えます。
「Denkbilder」は電子版もリリースされていますが、編集部のある部員は、印刷物の方が、読者に技術の進歩に流されずに「立ち止まって考える時間」を与えることができる、ゆっくり読む楽しさをより感じてくれているのではないか、と言います。
現在は、インターネットで膨大な情報に触れられます。しかし、自分が関心のあることについては、とても役に立ちますが、その他の情報については、目にする機会が少なくなったのではないでしょうか。そんな中で、新聞の媒体としての公共性と情報の多様性、信頼性は、見直されると感じています。
私たちが購入した「Denkbilder」は9月初旬に国際郵便で届く予定です。スイスの大学生が考えた「島」を眺めながら、自分だったら何をイメージするのか楽しみです。日本の学生(学生でなくとも)だったらどのような展開をするでしょうか?皆さんも実物を手に取り「島」に想いを巡らせてみるのはいかがでしょうか。
チューリッヒ大学
1833年に設立された国立大学。これまでにチューリッヒ大学内の学者12人がノーベル賞を受賞している。
Denkbilder編集部連絡先:
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