武漢のウェットマーケットを再現。
米のアーティストが制作したAR作品
「Wuhan Wet Market」

当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。

“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。

今日のトピック

ボストンを拠点とするアーティスト、ジョン・クレイグ・フリーマンさん(John Craig Freeman)が、武漢のウェットマーケットの様子を再現したAR作品「Wuhan Wet Market」を制作し、5月から ALLWorld ARマガジンで無料公開しています。

SPREADはこう見る

「Wuhan Wet Market」は、アートを通して世界中の社会や環境における課題に取り組む、米国国務省の文化外交プログラムZERO1 American Arts Incubatorの一環として制作された作品です。

対象に選んだのは武漢のウェットマーケット。フリーマンさんは、そこで急速に変化する都市を記録し、その土地の複雑な文化と歴史に焦点を当てました。さまざまなアングルから撮影可能な「フォトグラメトリー」という技術を用いて2016年から撮影を開始。そのデータを元に三次元モデル化しました。「Wuhan Wet Market」をスマホで見てみると、精肉店や鮮魚店、八百屋が立ち並ぶ市場の風景が、自分がいる現実の風景にオーバーラップされて映し出されます。市場のすべてが再現されているわけではありませんが、赤い光に照らされる肉やカゴにたくさん入った魚の存在感、店主と客の会話などが聞こえてきて臨場感が味わえます。

武漢のウェットマーケットは、コロナウイルスの発生源だと言われています。しかし確証はなく、WHOが7月に武漢を調査した結果が公表されるまで真偽のほどはわかりません。

今回、この作品で実際のウェットマーケットの様子を見て、かなり衝撃を受けました。不衛生な印象はありますが、これは人によって基準が異なるので、衛生管理が十分かどうかはそこで生活する人々が判断することです。そして、同じような衛生環境の市場は世界中に存在します。どこにでもパンデミックの原因は潜んでいて、常にその危険と隣り合わせだということかもしれません。コロナの流行によりさらに予測不可能な時代になったことを痛感します。

こんなにもコロナが話題にあがっているにもかかわらず、武漢のことを意外と知らないことにも気づきました。

コロナウイルス流行の原点かもしれない武漢を知るきっかけがあれば、今までわからなかった問題が見えてくるかもしれません。これはデザインのプロセスと一緒です。たとえば建築やランドスケープでは、プランに行き詰まったらプロジェクトのベースとなる敷地(場)に戻って考え直します。

そもそもコロナウイルスはなぜ広まったのか、いま私たちは基本に立ち返って考えるときなのかもしれません。この作品を通して武漢のウェットマーケットを知ることもそのための手がかりとなりそうです。End

John Craig Freeman
ボストンを拠点とするアーティスト。テクノロジーを駆使した作品を制作。北京現代美術館やサンフランシスコ近代美術館、ボストン現代美術館などでの作品展示など国際的に活動する。ボストンにあるエマーソン大学でニューメディアアートの教授を務める。

▲本プロジェクトをレーダーチャードで示しました。6つの属性のうち、成果物のデザイン性を「Creativity」で評価しています。「Pure & Bold」は目的に対して一途な強さを感じるか、やりきっているかという、SPREADが自らの仕事において大切にしている視点です。