NYタイムズが絶妙な手法で記事に引き
込む。アマゾン川流域のコロナ感染
状況を伝える特設ページ

当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。

“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。

今日のトピック

NYタイムズがブラジルのコロナウイルスの被害を克明に伝える特設ページ「The Amazon, Giver of Life, Unleashes the Pandemic」を7月25日に公開しました。コロナ感染によるブラジルの死者数は、特設ページ制作時点で米国に次ぐ世界2位です。

SPREADはこう見る

この特設ページは、ブラジルのパンデミックがアマゾン川を中心に広がっていること、そこに暮らす人々の状況を伝えるために制作されました。

トップページの真っ暗な画面からスクロールすると、まずひとつの棺の写真が浮かび上がります。その後スクロールしていくと徐々に引きの視点になっていき、画面全体が棺で埋まります。この伝え方と棺の数に衝撃を受けました。これはブラジル北部に位置するアマゾナス州最大の都市、マナウス市にある聖母アパレシーダ墓地の写真です。

アマゾン川は南米における重要な生命の源であり、大陸を横断するハイウェイのような存在。8か国にわたる広大な土地をつなぐ流通の要として道路がない森林地帯まで物資や人を届けることで約3,000万人の生活を支えています。

そんなアマゾン川でいま、隣町に人々を運ぶカヌーや釣りをするボートなどを介してコロナの感染者が多く発生しています。長距離間で物資と人を運ぶフェリーでは移動中に隣り合うハンモックで過ごす人々の間で感染が広がり、ブラジルで感染者数が特に高い地域はアマゾン川沿いに集中しています。「都市の病」のはずが、人口が多くないであろう場所でここまで被害が広がっていることに驚きます。

川を渡りコロナウイルスの検査を受けにきた女性たち。亡くなった方の遺族と防護服姿の埋葬チーム。臨時病院で検査を受ける女性とその様子を見ている子供たち。数々の報道写真が訴えかけます。しかし、写真の力もさることながら、このページの凄さは一度に見える情報量のバランスにあります。雄弁に物語る写真とごく短い文章が情報を的確に伝え、その組み合わせが、スクロールによって生み出される時間の流れに沿って絶妙なバランスとテンポで現れます。その合間に挿入される長文、序盤や中盤に溜めをつくる演出も読まなければならない義務感を感じさせず、特設ページの世界に読者を引き込みます。ひとつのテーマを一連の流れでみせるツアーのような構成です。

この「一度に見える情報量のバランス」は、グラフィックや空間のデザインにおいて私たちも近年心がけている重要なポイントです。スマートフォンの出現が大きいと推測していますが、情報が溢れる社会に合った伝え方なのでしょう。情報が多すぎた時点で閲覧者は理解することを諦めます。新聞の紙面のように複数のニュースを並列で掲載し、どこから読むかは読者にゆだねるやり方から、伝えたいトピックを絞り、その内容にのめり込めるような編集方法へ。近い将来、ニュースサイトや新聞にこの手法が増えていくのではないでしょうか。End

▲本プロジェクトをレーダーチャードで示しました。6つの属性のうち、成果物のデザイン性を「Creativity」で評価しています。「Pure & Bold」は目的に対して一途な強さを感じるか、やりきっているかという、SPREADが自らの仕事において大切にしている視点です。