NEWS | 建築
2020.07.28 16:45
前田圭介/UIDが設計監理を手がけた、宮城県仙台市の商業施設「IGOONE ARAI(イグーネ荒井)」は、市中心部から少し離れた新興住宅地にある。
数年前にできた最寄り駅の周囲には目立った商業施設などはなく、設計当時から更地の状態が多くて賑わいはあまり感じられなかったという。
そのため、クライアントからは「人が滞留できる場」を街に提供することが求められ、このエリアにおける賑わいの起点の創出を目指した。
また、クライアントが運営するオフィスやコワーキングスペース・ギャラリーのほか、仙台を拠点とする珈琲専門店や美容室が入居するにあたり、基本設計段階から建築と一体的に構想。各テナントユーザーにとって自由な動線や互いの境界を超えて利用できる複合商業ビルの在り方を模索したそうだ。
敷地周辺はかつて仙台平野の農村地で、奥羽山脈から吹き降ろす季節風から家を守る屋敷林「イグネ(居久根)」があった。しかし、近年の生活様式の変化に伴ってイグネは減少。そこで、市街化が進みゆくこの地において、イグネの風景と歴史の記憶を新たなかたちによって再創造したいと考えた。
具体的には、2つの前面道路が交わる辻に対して開くように2棟の分棟型のボリュームを配し、湾曲屋根によってそれらを覆う構成とした。さらに、意匠と構造を兼ねたバットレスのフレームが、辻に対して緩やかに弧を描くファサードを作り出している。
さらに、東西の各ボリュームとそれらを繋ぐ湾曲屋根や前面のフレームとの隙間に生成された余白=半外部空間によって、テナント間との距離感や自由な回遊動線が誕生。
一方、郊外型テナントビルに必要な駐車スペースについては、マツを中心としたランドスケープを介することで、建築との間合いを確保。半外部空間の1・2階テラスを心地よい場とすることで、東北地方では比較的利用されにくい外部空間を、1年を通して積極的に外部との応答を楽しめる居場所とした。
かつて水田地帯に浮かぶ緑の「浮島」と呼ばれていたイグネは姿を変え、都市の中に浮かぶ屋敷林としてこのエリアのアイコンとなり、多くの人に親しまれる風土の継承と新たな環境が実現した。