当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。
“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。
今日のトピック
ポンピドゥー・センターが初のビデオゲーム「Prisme7」を4月24日にリリースしました。仮想空間を探索し同センターの作品を発見するというストーリー。英語版と仏語版があり、スマートフォンアプリ、WindowsとMac対応、無料でプレイできます。制作を担当したのは、フランスを拠点とするGame in Society。教育関連のゲームを得意とする会社です。
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「Prisme7」は、コロナウイルスをきっかけに制作されたものではありませんが、外出自粛中に各国の美術館が行ったバーチャル美術館を連想させます。美術館を回遊する擬似体験ができるバーチャル美術館は、普段混んでいる場所を自分のペースで鑑賞できるのが良いところですが、実体験の再現の域を出ず、美術館に行けないときの代用という印象です。
このゲームは、芸術性の高いゲームをコンセプトに制作されました。対象は、現代アートに興味のある10代の若者から大人まで。7つのステージがあり、黒いドットの集合体のようなアバターを操って簡単な謎解きやパズル、宝探しをしながら探索し「Art Work」というアイテムを集めます。ポンピドゥー・センターの象徴であるパイプやピエト・モンドリアンの「ニューヨーク・シティ」を彷彿させる配色など、所蔵作品の特徴を取り入れたバーチャル空間のデザインは同センターならではのクオリティです。
ステージをクリアすると「Art Work」を集めた数だけコレクション情報を得ることができます。現代アートに興味のある人だけでなく、ポンピドゥー・センターに行ったことがない人やゲームが好きな人でも楽しめる仕掛けだと感じました。デジタル媒体だからこそ表現できる新たなアートの楽しみ方を提案しているようです。
「Prisme7」のアート作品を収集しながら作品についての知識を得ていく感覚は、自分で手に入れる達成感がプラスされるので、作品に対する興味が増すかもしれません。
アバターを操っていると、普段こんなに自由に美術館を満喫できていないことに気がつきました。このゲームのように、立ち入り禁止の場所がなく、自分の思いのままに会場を歩き回ったり、あらゆる角度から立体作品を眺められたら、心ゆくまで鑑賞できる、のびのびと過ごせる美術館になりそうです。
今後第2波、3波がくることになれば、再び美術館や博物館に行けなくなることもあるでしょう。そんなときこそ、バーチャル美術館がもつ臨場感と、ゲームならではの非現実的な仕掛けを融合したまったく新しい美術体験が開発される可能性が生まれるのかもしれません。