ブラジルの国立競技場、エスタジオ・
ナシオナル・デ・ブラジリアに 臨時の
コロナウイルス感染対応病院を設営

当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。

“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。

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5月上旬、ブラジル政府は、国立競技場であるエスタジオ・ナシオナル・デ・ブラジリアに臨時のコロナウイルス感染対応専門病院を設営し現在も継続しています。

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アリーナにつくられたこの病院の面積は6千平方メートル、集中治療室(ICU)と通常の病室の2種類があり、合計173床のベッドが用意されています。まず5月20日に100床、10日後さらに70床追加し、最後に人工呼吸器が導入されました。サッカーアリーナにはエアコンなどの機器を増設する設備が揃っており、野外病院の設営が比較的スムーズに行えるそうです。

エスタジオ・ナシオナル・デ・ブラジリアは、初めはエスタディオ・マネ・ガリンシャという国立競技場で、1974年に建築家イカロ・デ・カストロ・メロ(Icaro de Castro Mello)によって設計されました。その後建て直され、2014年FIFAワールドカップの準々決勝、3位決定戦などが行われました。スタジアムの外部を取り囲むように屋根を支える288本の柱が特徴で収容人数は約7万人。世界でもっとも有名なサッカーアリーナのひとつです。

実は2014年FIFAワールドカップ開催にあたり、社会福祉が整備されていない状況にもかかわらず、巨額を投じアリーナ建設を優先したため完成したスタジアムは「負の遺産」と呼ばれるほどでした。約85億円を費やしたエスタジオ・ナシオナル・デ・ブラジリアもW杯以来、年に数回ライブを行う以外、ほぼ使われることはありませんでした。そこでブラジル政府は感染者の増加に伴い多くのサッカーアリーナをコロナウイルス対応の仮設病院として使用することを決定。「負の遺産」が国民の命を救うために活用されることになりました。

ブラジルは言わずと知れたサッカー大国です。そのような国の、ましてやワールドカップが行われたアリーナが臨時病院になっている状況が、ブラジルの新型コロナウイルス流行の深刻さを物語っています。日本の国技である相撲の両国国技館が病院になるような感覚かもしれません。さらにはエスタジオ・ナシオナル・デ・ブラジリア以外にもスタジアムなどに6つの病院が設営されました。2014年FIFAワールドカップ決勝戦と、2016年のリオデジャネイロオリンピックの開会式と閉会式が行われた、サッカーの聖地であるマラナカン・スタジアムも使われています。これらの病院が建設され始めた5月1日当時の1日におけるブラジルの感染者数は5919人。2カ月後の7月1日には4万4712人に激増しています。エスタジオ・ナシオナル・デ・ブラジリアが100個あっても1日に増加した感染者全員を入院させるには足りません。増加速度の恐ろしさを感じました。End

▲本プロジェクトをレーダーチャードで示しました。6つの属性のうち、成果物のデザイン性を「Creativity」で評価しています。「Pure & Bold」は目的に対して一途な強さを感じるか、やりきっているかという、SPREADが自らの仕事において大切にしている視点です。