当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。
“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。
今日のトピック
ロサンゼルスにある博物館、The Autry Museum of the American West(AUTRY)は、コロナ禍の生活を記録し、また、黒人差別を訴えるBlack Lives Matter運動の抗議に関連するアイテムを後世に残すため、アメリカ西部に住む人々に資料となる物品提供の協力をAUTRYの公式HPで呼びかけました。4月27日から募集を開始し集められたフェイスマスクやレシピ、自宅の写真、日記の画像、それらにまつわるエピソードなどは公式ブログ「Autry File」で公開され収集活動は現在も継続しています。
SPREADはこう見る
コロナ禍で生活必需品になったマスクのコレクションでは、医療用の使い捨てマスクとは比べ物にならないくらい個性的なものが多く見られます。パンデミック下でもマスクでアイデンティティを表しているかのようです。
カリフォルニア州のブリギッド・プルスカンプさん(Brighid Pulskamp)は、自身がアメリカ南西部の先住民族ナバホ族であることから、彼らに似合うマスクを制作しました。サテンのような艶のある鮮やかな生地を用い、耳にかける部分には黄色と青の長いリボン。民族衣装のスカートとフィットします。このマスクは、ドレス、ネックレスと一緒にオークションにかけられ、その収益はカリフォルニア大学ロサンゼルス校のアメリカインディアン同窓会奨学基金に寄付されます。
ファッションデザイナーであるノエル・コービンさん(Noel Corbin)は、西アフリカ特有のファブリックであるアンカラを使ったフェイスマスクを制作。黒地に赤や青、オレンジ色で植物や幾何学の模様が描かれた布がたっぷりと使われ、おおぶりなフリルやターバンとのコンビネーションがファッショナブルです。このフェイスマスクを自身のSNSで投稿したところ、購入したいという声が多く寄せられたため、販売を開始したそうです。
他にも、外出自粛の時間を利用して制作された編み物や、マスクを着用して撮られた家族写真などが集められ、そこから垣間見えるリアルな生活から市民が何をよりどころに生活していたかがわかります。画像や文字情報でなく実際のモノをアーカイブするのは、アナログな手法ではありますが情報量が桁違いに多くなります。
この事例を見て思い浮かぶのは神戸の施設「人と防災未来センター」です。阪神・淡路大震災の経験を語り継ぎ、その教訓を未来に生かすためにさまざまなものが実物でアーカイブされており、そこから得られる情報量はとてつもありません。AUTRYの次のステップはアーカイブの共有方法になるでしょう。集める量が増えれば増えるほど、そのアーカイブを未来に伝えるため、どのように共有するか、がキーになります。多大な情報量をどうやって機能させるかはデジタル化以降の大きな社会テーマであり難問かもしれませんが、アメリカ西部の土地に根ざした活動をする博物館だからこその収集と共有を期待したいです。
The Autry Museum of the American West
AUTRYは、アメリカ西部の芸術、歴史、文化を収集しています。アメリカ西部の全民族の物語を集め、現在から過去を見つめ直し未来の糧にするために活動している(AUTRY公式FB 基本データ参照)。年間を通じて講演、映画、演劇、フェスティバル、音楽など、幅広いイベントやプログラムを開催。そのほかにも独自の奨学金制度などの教育活動を行っている。