当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。
“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。
今日のトピック
オランダのデザイナー、ジョバンニ・ガローネ氏(Giovanni Garrone)は、コロナウイルスのパンデミックによるロックダウンなどにより人間の活動が停止したとき、世界はいったいどうなってしまうのか、をテーマにした写真作品「Beyond」を制作しました。
SPREADはこう見る
ガローネ氏は、植物が繁茂し世界各国にあるランドマークを覆い尽くす空想の世界、神秘的な場所を想像したと述べています。この作品は、人々がコロナ禍以降にどのような未来を描くのか問いかけているようです。臨場感すら感じる、加工技術や絵作のクオリティーが高い作品です。
廃墟と化したエッフェル塔やサン・ピエトロ大聖堂、生い茂るジャングルに飲み込まれそうな自由の女神。ガローネ氏の故郷であるベネツィアや、学生時代を過ごしたローマなど自身にゆかりのある土地の風景を描いているものもあります。しかし、そこに人の気配はありません。ベルリンにある「虐殺されたヨーロッパのユダヤ人のための記念碑」の作品は、キリンとモニュメントの縮尺が合っていないようにも思いますが、ホロコーストとコロナによるパンデミックで亡くなった方たちが重なってなんとも辛い気持ちになります。
この作品は、ファンタジーともとれる現実とのギャップがある風景なのに「もしかしたら現実になるかもしれない」とも思わせます。良くも悪くも取れる未来像です。人の活動が衰退してようやく自然との共存が成立するようになった世界なのかもしれません。ただし、果たしてこの未来に人間は存在しているのか?という恐怖も同時に広がります。
そもそも、自然と人の共存は実現可能なのでしょうか?人は、どうしても自分たち中心で考えます。では、何を持って「自然の側に立った共存」と呼べるのか。議論の余地はありますが、自然を開拓することで獲得した人類の繁栄を逆行させる必要があるならば、実現は難しいのかもしれません。そんなことをつい考えてしまいました。
Giovanni Garrone
オランダ・アムステルダムを拠点とするイタリア人デザイナー。主にビジュアルブランディングを手がける。