新型コロナウイルスの蔓延によって、特に国際線の旅客が激減した航空会社や旅客機メーカーは大打撃を受け、すでに破産申請を行った企業も出てきている。ウイルス禍がひと段落しても、人々の心理的なブレーキが解除されるまでには時間がかかると考えられ、ソーシャルディスタンスを確保したシーティングを意識すれば旅客機の定員は減り、航空運賃の値上がりは避けられないとの見方もある。
そんななか、プエルトリコに設立されたゼファー・エアロスペース(現在、zephyrseat.comはこの投資家向けサイトにリダイレクトされる)は、旅客機内のソーシャルディスタンスを確保しつつ、座席数の減少を抑え、かつ従来よりもはるかに快適に過ごすことのできるダブルデッカー(2階建)タイプの「ゼファー・シート」を提案した。
そのデザインは、背もたれを固定してリクライニング機能は廃止するとともに、前席横のデッドスペースを活用して足を伸ばしたり、完全にフラットな状態で眠ることができる空間レイアウトを実現。あわせて、通常の機体の天井までの高さを活かして同様のシートを上方にも設置し、格納式の梯子によって乗客が昇降できるようになっている。
ゼファー・シートは、現在のプレミアムエコノミークラスに最適のシーティングとして考えられ、開発元によれば既存の同クラスのシートに比べて座席数を2割強増やすことができるとされる。また、ボーイングやエアバスの標準的な旅客機の座席をそのまま置き換えられるように設計されており、新たな機体を必要としないほか、エアラインに合わせたカスタマイズも柔軟に行えるという。
旅客機内に新しい日常をもたらす可能性を秘めたこのシートデザインは、現在、エア・ニュージーランドを筆頭に、ブリティッシュ・エアウェイズ、バージン・アトランティック、カンタス、ルフトハンザ、デルタ、日本航空などと導入に向けての協議を進めており、旅客機メーカーにOEM供給される可能性もある。
ウイルス禍がなければ大胆過ぎるデザインとして敬遠されたかもしれないが、筆者としては、ゼファー・シートが、環境の変化によって新たなソリューションを生み出した好例として記憶されることを期待している。