当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。
“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。
今日のトピック
サウンドアーティストであり、エクスペリエンスデザイナーのYuri Suzukiは、Dallas Museum of Artと共同でパンデミック中の生活音をクラウド上で募集しアート作品「Sound of the Earth: The Pandemic Chapter」を制作しました。
SPREADはこう見る
2020年に起こった現実をアーカイブし、未来に届けるような作品です。
集められた音は、位置情報に基づいて地球に見立てた黒い球体にポイントされます。白く光る点をクリックすると音が聞こえ、そこで生活する人々の暮らしぶりが想像できます。また、自分で録音した音をプロジェクトサイトに投稿して参加することも可能です。
自宅待機が求められる状況下では、オンラインの繋がりがこれまで以上に重要になります。この作品は「生活音の集合体を聞く行為を通じて、世界中の誰かとの繋がりを提供したい」との考えから制作されました。共同制作を行なったDallas Museum of Artは、「歴史に残るであろう現在の瞬間を記録してください。今回のプロジェクトでは例えば夕食をつくる音や、通り過ぎる救急車のサイレン、愛する人とのオンライン会話など普段何気なく聞いている音を募集します。」とコメントしています。
確かに聴こえてくるのは、どれも隣の家から漏れ聞こえてくるような生活音や、歩いている時に無意識に耳に届くような音です。例えば鈴虫の鳴き声からは、パンデミックにより地球環境が少しだけ良くなったことが想像できます。人声を聞くとしばらく会えていない友人を思い出します。また、何かわからない機械音からは未来の世界を想像しました。旅ができない状況なのに、まるで世界を旅しているようです。また、全体に黒いビジュアルが想像を膨らませる役目を果たしているようです。このプロジェクトは、パンデミックがあった2020年の記録だからこそ意味が深まります。
今をどうアーカイブするのか?このテーマは、文化的プロジェクト関係者から聞くことが少なくありませんが、その答えは未だ見つかっていません。特にに地球規模で起こったできごとのアーカイブをどのようにつくり、どうやって伝えていくのか?「Sound of the Earth: The Pandemic Chapter」は、この問いへのひとつの考え方を提示しているような気がします。
Yuri Suzuki
ロンドンを拠点とするサウンドアーティスト、エクスペリエンスデザイナー。2008年、デザインスタジオYuri Suzuki Ltdを設立。
Dallas Museum of Art
米テキサス州にある美術館。1903年設立。