当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。
“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。
今日のトピック
シンガポールの新聞社「THE STRAITS TIMES」は、政府が制作したコロナウイルス対策を伝えるグラフィック広告を頻繁に掲載、状況に応じた情報を伝えました。例えば2月3日には、マスクの買い占めを防ぐため、体調が悪い時のみ着用するよう呼びかける内容、2月20日には感染者増加を受け、風邪の症状が出たら病院に行き、学校や職場に行かないよう呼びかけるものでした。
SPREADはこう見る
この新聞広告を見たのは滞在したシンガポールのホテルでしたが、新聞を見るといきなり目に飛び込んできたのは「正しい手洗い方法」。「THE STRAITS TIMES」は、英語の日刊としてはシンガポールで最も発行部数が多い新聞です。その新聞の1面の上に縦半分の紙面が追加され、その情報が掲載されていたのです。そこまでやるのかと驚くと同時に、普及効果を想像して感嘆しました。
のちに調べてみるとこのグラフィックは、政府が制作したものだとわかりました。国民に広くコロナ感染に関する情報を浸透させるために新聞を利用したのでしょう。新聞は、同じくニュースを扱うTV番組と違って手元に残ります。家のなかにある新聞は、家族全員が手に取ったり目に留まるタッチポイントが多いのです。
この広告のグラフィックは、可愛らしくシンプルなイラストで、老若男女に分かりやすい表現になっています。また、2月3日はグリーン、2月20日はオレンジと色が変化しています。これは、シンガポールの保健省が公表している「DORSCON(The ‘Disease Outbreak Response System Condition’)」という感染状況の指標と連動していると思われます。4段階を色分けしており、グリーンから、イエロー、オレンジ、レッドと変化します。
国が徹底した危機管理を行うところはシンガポールならではの特徴と言えるかもしれません。数年前にデング熱が流行した際、ウイルスを運ぶ蚊を排除するため、大規模な殺虫剤頒布が定期的に行われるようになりました。現在でも、デング熱に感染したと思われる患者全員に無料で虫除け剤を配るなど、隅々まで対策がゆき届く仕組みがつくられています。
国による管理はときとして良いことばかりではないかもしれませんが、命に関わる重要な情報は、政府主導でスピーディーに徹底して普及させていくことが重要だと感じました。
THE STRAITS TIMES
シンガポールの新聞社。英語の日刊新聞の中で最も発行部数が多い。1845年に創刊。