デザインスタジオ、multiplyが
ソーシャル・ディスタンシングを
維持するスカート「petticoat dress」
を提案

当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。

“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。

今日のトピック

世界各地のメンバーで構成されるデザインスタジオ、multiplyは、ソーシャル・ディスタンシングを維持するためのスカート「petticoat dress」を提案しました。キャンプ用のテントから着想を得た生地を使用。コストは安く、軽くて丈夫、簡単に洗えて速乾性に優れています。畳んで持ち運ぶこともでき、大きさの割に体に負担をかけることはないとのことです。

SPREADはこう見る

コロナ以降、公共スペースにはソーシャル・ディスタンシングのサインが増えました。レジ前や銀行などによくある、2m間隔のラインに沿って進むときは安心できるでしょうが、何も目安がないところで人とすれ違うとき「本当に2m離れているのか」と疑心暗鬼になることもあるかもしれません。そもそも正確な距離を維持することは難しいものです。この直径2mの「petticoat dress」を着れば意識せずとも社会的距離が保たれます。誰かが近くにいても、距離感を気にする必要がなくなり、感染リスクの不安から解放されるかもしれません。

このスカートは、2つの衣服から着想を得て制作されました。ひとつは、スコットランドの伝統衣装であるキルト。大きな円錐状のスカートは、スチールワイヤーとファイバーグラスの骨組みで支えられています。

もうひとつは、ビクトリア朝時代に流行し、現在もウェディングドレスとして知られるボールガウン。腰から下にボリュームのあるシルエットが特徴です。

1800年代、ボールガウンを着る際スカート部をボリュームアップするために使われていたのが鯨のひげや針金でつくられた下着、クリノリンです。より華やかに見せるためのものでしたが、同時に人混みのなかで人との距離をとったり、意に沿わない求婚者を遠ざけるのに役立っていたと言います。

スカートのデザインは、時代を反映しながら変化し、その流行は繰り返されてきました。1960年代、女性解放運動やスポーツをする女性が増えたことでスカート丈は短くなりました。1970年代には、スエードやデニム生地の脛辺りまであるスカートが流行。その後、1900年代後半には、くるぶしまで隠れるマキシ・スカートが日本で流行します。2010年代は花柄のフリルが揺れるミニスカートがインスタグラムで流行しました。

衣服には、ファッション性や身体を保護する機能だけでなく、目に見えない不安から自分を守るための心理的な防御の役割もあるのかもしれません。クリノリンの時代と状況は違えど人との距離をとるためにこのようなスカートがまた登場したことは興味深いです。End

multiply
世界各地のメンバーで構成されるデザインスタジオ。建築をベースに、都市との相互作用が生まれるデザインを行う。

▲本プロジェクトをレーダーチャードで示しました。6つの属性のうち、成果物のデザイン性を「Creativity」で評価しています。「Pure & Bold」は目的に対して一途な強さを感じるか、やりきっているかという、SPREADが自らの仕事において大切にしている視点です。