NEWS | サイエンス
2020.06.10 14:50
理化学研究所は、農業生態系における植物-微生物-土壌の複雑なネットワークのデジタル化に成功したことを発表した。これまでは熟練農家の経験として伝承されてきた高度な作物生産技術が、科学的に可視化できるようになったそうだ。
今回の発表は、理化学研究所バイオリソース研究センター植物-微生物共生研究開発チームの市橋泰範チームリーダーらの共同研究グループによるもの。
1960年~2000年の世界の農地面積はほぼ一定だが、世界人口は倍増し、窒素化学肥料の使用量は8倍に増加。食料を増産するとともに、農地への過剰な施肥により、農業由来窒素が引き起こす環境汚染や土壌の劣化など、大量生産・大量消費・大量廃棄型社会の弊害が現れているという。
こうした背景から、環境低負荷型の農業の実現に向けて、農業生態系をトータルで理解する必要が指摘されている。しかし、農業生態系は植物と微生物と土壌が複雑に関係しており、これまでの各階層での単独解析のみでは農業環境の実態を部分的にしか解明できなかった。
そこで、研究グループは、千葉県八街市で行われている「太陽熱処理」によるコマツナの有機農法に着目し、未解明であった滅菌や雑草防除、作物の生育促進効果を分析。農業現場において各階層間の相互関係を統合的に解析する「マルチオミクス解析」と呼ばれる手法を使った。
この農業生態系のデジタル化により、化学肥料に頼らず有機態窒素を活用することで、持続可能な作物生産が可能であることがわかった。今後は、環境共存型の新しい農業に向けた持続的な作物生産の実現を目指している。