ウイルスから身を守る、鎧のような衣服。
銅素材の「Full Metal Jacket」が示唆する未来の危機

当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。

“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。

今日のトピック

イギリスのアパレルメーカー、Vollebakは、銅を素材にしたジャケット「Full Metal Jacket」を発表しました。使われている銅は11km、素材全体の65%にあたります。公式HPで購入可能、価格は約12万円です。

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銅でつくられた服を着られる日がくるとは思ってもみませんでした。これはウイルスから身を守るための現代の鎧のような服です。銅の殺菌効果は古くから知られており、古代エジプトでは医療器具の材料として利用され、現在NASAが開発している最新の医療ツールにも使用されているそうです。その効果は、70cm離れたところにまで及ぶと言われています。

「Full Metal Jacket」は、全体の半分以上が銅なので、重さが少し気になりますが、肌触りは柔らかく、防水性に優れ、防風性と通気性を備えています。首元にはフリースの裏地とポケットがついており、毎日の着用を想定したデザインです。

驚いたのは、このプロジェクトが新型コロナウイルスが流行する前から始動していたことです。Vollebakは、未知の病原菌が流行したり、地球外の惑星に移住するかもしれない未来を想定し、バクテリアやウイルスを殺菌する効果があり、熱や電気の伝導性が高い銅を衣服の素材として採用したそうです。その後、どこまで銅の含有率を高められるかの実験を重ね「Full Metal Jacket」が完成しました。そのタイミングが、たまたまコロナの流行に重なったようです。

また、Vollebakは、温暖化や海面上昇など地球規模で環境が変化する速度に対して、適応する準備が間に合っていないと考えています。「Full Metal Jacket」は、その変化に備えるためのものでもあるのです。

このジャケットは、コロナウイルスによる惨禍を予見した結果になりました。普段は流してしまいそうな「そんな未来くるわけないでしょ」という提案が、将来起こりえる危機を迎え撃つ可能性を示唆したのです。一見まるでSFのような奇想天外なアイデアにこそ、未来を予見するヒントがあるのかもしれません。不測の事態に備え、先入観にとらわれないインプットを心がけたいものです。End

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▲本プロジェクトをレーダーチャードで示しました。6つの属性のうち、成果物のデザイン性を「Creativity」で評価しています。「Pure & Bold」は目的に対して一途な強さを感じるか、やりきっているかという、SPREADが自らの仕事において大切にしている視点です。