当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。
“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。
今日のトピック
イタリアの建築事務所、キャレット・スタジオ(Caret Studio)が社会的距離を示す機能を屋外の公共スペースに付加した「StoDistante」を提案。フィレンツェ近くの町、ヴィッキオ(Vicchio)にあるジョット広場(Piazza Giotto)で見ることができます。
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「StoDistante」は、ロックダウン解除後のイタリアで、人々が安全に公共スペースを利用するために考案されました。広場の石畳に白い正方形が、1.8mの間隔で描かれ、コロナウイルスが終息した際には元に戻せるよう剥離可能な塗料が使われています。
ジョット広場を上空から眺めると、正方形が広場の中心から外側に向かって少しずつ小さくなっています。この変化をつけることで、グリッドや四角形がもつ、ルールに縛られるような窮屈な印象が弱まり、一種のアート作品として見ることもできそうです。
社会的距離を示すグラフィックの多くは、コロナウイルスの危険性を的確に伝えるため、人や「2m」という具体的な距離、矢印などが入った直接的なものでした。その後、情報が浸透し人々の意識も高まってきたため、これからは間接的な方法でも安全を伝える機能を果たせるようになると思われます。このプランでは、個々の正方形そのものは意味をもちませんが、適切な距離を保つためのガイドになるでしょう。やがてこのサインも生活に馴染み、道路上の白線や横断歩道のように、自然と正方形に沿って歩いたり、子供たちが正方形を飛び石のようにして遊ぶようになるかもしれません。
この提案を見て、パリのパレ・ロワイヤルで見たダニエル・ビュラン(Daniel Buren)の作品「Place du Palais Royal」を思い出しました。白黒のストライプ柄が施された高低さまざまの円柱が、2mほどの間隔をあけてグリッド状に並んだ広場では、子供が遊んだり人々が腰掛けている姿が見られました。アートが公共空間に自然に溶け込んでいる風景でした。
今回描かれた正方形は、役目が終わったら元の石畳に戻せるようですが、終息後に残っていても違和感なく受け入れられそうだと感じました。ジョット広場以外にも、公園、図書館、映画館やショッピングモールなどの広いスペースに応用することもできるはずです。正方形のみという簡潔なデザインが、やがて生活に馴染み、無意識にソーシャル・ディスタンシングを浸透させるきっかけになるでしょう。
Caret Studio
イタリアを拠点とし、建築、都市計画を手がける事務所。2014年設立。