飛行機による移動が加速したグロー
バル化の明と暗。写真家トム・
ヘーゲン氏の作品から学ぶこと。

当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。

“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。

今日のトピック

ドイツ・ミュンヘンを拠点とする写真家・デザイナーのトム・ヘーゲン氏(Tom Hegen)は、コロナウイルスの影響で封鎖された空港の写真「THE LOCKDOWN SERIES」を公開しました。飛行機によってもたらされた利便性の一方で、その移動がウイルス感染拡大の一因となってしまった事実。そこから学ぶべきことを伝えています。

SPREADはこう見る

ヘーゲン氏の写真は、ヒリヒリとした臨場感を伝える新聞やニュースの報道写真とは異なり、作品として見る者を惹きつけます。私たちがよく知る当たり前の空港の風景が美しく見えるのです。なぜ美しいと感じるのか。それは、構図とフォーカスにヒントがありそうです。「THE LOCKDOWN SERIES」だけではなく、彼の作品は上空から地上を俯瞰で撮影したものが多く、そこに写る立体物すべてが、グラフィックの要素として魅力的な模様を描いています。また、被写体すべてにピントを合わせ、高解像度で撮影していますが、長年にわたる作品づくりの積み重ねから得られた確かなスキルがそこにはあります。

この写真の美しさの先にあるのは、私たちに空港や飛行機の功罪を考えてほしいというメッセージです。飛行機という便利な移動手段によって、世界中の商品がスピーディに流通し、人々が短時間でどこへでも行けるようになった反面、ハブとなる空港に人々が集中したことで、新型コロナウイルスは、急速に感染拡大し、多くの人々の生活を遮断する一因となりました。

世界各地の多くの空港では、滑走路が閉鎖され、グローバリゼーションの象徴であった飛行機は、今や封鎖の象徴になっています。この危機から多くのことを学べるとヘーゲン氏は言います。例えば製品の生産拠点を分散させずに、1地域で完結できないか、会議のためにほんとうに現地に行く必要があるのか、オンラインでも十分なのではないか、改めて考えるきっかけにしてほしい、と。

昨年11月、シンガポールのreddot design museumで開催されていたred dot design awardsの受賞展「Human-Nature」で鑑賞の導入として展示されていたアート作品の中に彼の「THE COAL MINE SERIES」がありました。受賞作品ではなかったのですが、その美しさに目が止まり、印象に残っています。End

Tom Hegen
ドイツ・ミュンヘンを拠点とする写真家・デザイナー。人間の存在が、地球に及ぼす影響をテーマに、航空写真の作品を多く発表している。

▲本プロジェクトをレーダーチャードで示しました。6つの属性のうち、成果物のデザイン性を「Creativity」で評価しています。「Pure & Bold」は目的に対して一途な強さを感じるか、やりきっているかという、SPREADが自らの仕事において大切にしている視点です。