聴覚障がい者のコミュケーション
のために。アメリカの大学生が
制作したマスクの着眼点

当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。

“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。

今日のトピック

アメリカの大学生アシュリー・ローレンスさん(Ashley Lawrence)が聴覚に障がいを持つ人のために口元が見えるマスク「Deaf and Hard of Hearing Mask」を考案しました。

SPREADはこう見る

聴覚にハンディがある人に向けた提案という点で目に留まりました。リップリーディングやASL(主にアメリカ、カナダの英語圏で使用される手話)をコミュニケーションの手段としている人は、マスクを着用していると口元が見えず、意思疎通ができずに苦労されているそうです。

この問題を解決するため、ローレンスさんは口元に透明な素材を使ったマスクを考案。クラウドファウンディングのプラットフォームGoFundMeで3月31日から制作資金を募り、4月2日には目標金額を上回る約36万円の寄付を得ることができました。現在ローレンスさんは、このマスクを必要としている人に無料で配布しています。しかし希望者が多く、ローレンスさんの手づくりでは数に限界があるため、4月6日にはマスクのつくり方をウェブ上で公開しました。

この提案の着眼点は、ローレンスさんがイースター・ケンタッキー大学で聴覚障がいについて学んでいたからこそ気付けたものです。アイデアをかたちにするだけでなく、自ら制作し、資金調達から欲しい人に届けるまでのすべてをやり切る行動力は、困っている人の役に立ちたいという強い思いの現れかもしれません。必要とされる十分な機能をもった「Deaf and Hard of Hearing Mask」ですが、これにデザイン視点での改良が加わると、さらにアップデートできるのではないかと感じました。

デザイナーがよく使う言葉で「おさまり」というものがあります。例えばパンフレットのタイトル文字と説明文の冒頭は、縦一直線に揃っているかなど、読みやすさや使いやすさに配慮したデザインの考え方です。このマスクの素晴らしい着眼点に加え、「おさまり」を付加してマスクのクオリティを上げることができれば、さらに多くの人に使ってもらえるのではないでしょうか。より顔にフィットする形状にして、ウイルスを防ぐ機能を上げれば、口元が見える窓の部分の形状も長方形から楕円、もしかしたらひし形など別の適した形が発見できるかもしれません。また、現在マスクの色は、ブルーやイエローといった鮮やかな色が使われていますが、ベージュやグレー、白など、落ち着いた色に変えることで、顔に馴染んで使い勝手の良いものになるかもしれません。

世の中にあるさまざまな提案に、「着眼点」と「おさまり」が両立することでさらに可能性が広がりそうです。

他にもデザインが介入できることがあると思います。例えば、今も誰かが苦戦しているであろう雇用調整助成金申請書。もっと記入する情報量や記入欄の見え方を整理したり、提出後の管理方法を効率化できたら、1店舗でも多くの飲食店のお役に立てるかもしれません。End

▲本プロジェクトをレーダーチャードで示しました。6つの属性のうち、成果物のデザイン性を「Creativity」で評価しています。「Pure & Bold」は目的に対して一途な強さを感じるか、やりきっているかという、SPREADが自らの仕事において大切にしている視点です。