SDGs(持続可能な開発目標)が注目され、新型コロナウイルスの影響で化石燃料の産出量が削減されるなか、改めて再生可能エネルギーへの関心も高まっている。日本でも思わぬところで風力発電の巨大風車を見かけたりするが、燃料費がかからない反面、設備投資やメンテナンス費用はそれなりの額となり、風車が発生する低周波騒音を問題視する声もある。
10年近い開発期間を経て、今年いよいよテスト運用が開始されるスペイン発の風力発電システム「ボルテックス・ブレードレス」は、その名の通り、低周波騒音の原因ともなるブレード(羽根)を持つ風車ではなく、風を受けた円筒の振動によって発生する「渦励振(うずれいしん)」と呼ばれる現象を利用した、新しい発電システムだ。
発想の原点は、1940年に強風による共振現象で崩壊したアメリカのタコマ・ナローズ橋の事故の映像を、開発者のひとりが見たことにあった。その分析映像は、こちらで見ることができるが、円柱に当たった風が周縁部を通過する際にも渦が連続的に発生し、空気の流れが左右に振れることで、円柱自体も振動する。この揺れが内部にあるコイルと磁石を用いた発電機によって電力に変換されるのである。
渦の発生は不規則で、絶えず増減する風速によっても影響を受けるが、その変化に合わせて発電機を自動調整する仕組みを開発したことにより、風速3mという弱い風でも発電できるようになったという。
ギアなどの消耗部品がなく、部品点数も少ないことから、長期に渡ってメンテナンスフリーで利用でき、バードストライクのような事故も起こりにくいボルテックス・ブレードレスは、重量約15kgのユニットで100W/hの発電が可能。メーカーによれば、量産後は1基あたり200ユーロ程度で販売できるようになるとのことであり、それが実現すれば自然エネルギー利用の新たな地平を開くことになるだろう。