当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。
“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。
今日のトピック
アメリカの写真家デイビッド・ライダー(David Ryder)は、自身のブログでコロナ禍の最前線で働く医療従事者のポートレートやパンデミックに見舞われた町の光景を公開しています。
SPREADはこう見る
百聞は一見に如かず、とにかくこのブログを見てほしいのです。4月9日に公開されたのはシアトルにあるハーバービュー・メディカルセンターで働く医療従事者たちのポートレートです。治療に従事する、今この瞬間で誰よりも尊敬できる人たちの姿は、感染リスクのあるなかで撮影されたこれらの写真によって、一層見る者の心をとらえます。私たちは、新潟、燕三条地域のプロジェクトで多くの職人たちを撮影してきましたが、現場で誇りを持って働く人々の姿は、いつもスーパースターのように輝いています。
ブログでは、医療従事者の仕事現場も克明に伝えています。ワシントン大学医療センター内のICUで患者の世話をする看護師や、シアトルの低所得者層が多く住む地区に設置されたウイルス検査を行わうテント内で働く看護師。普段私たちが目にすることのないこれらの写真からは、最前線の緊張感が感じられます。
最近のライダー氏は、医療従事者に限らず、人々のリアルな生活を伝える投稿もしています。なかでもジャガイモに関する記事が印象的でした。ワシントン州ではコロナウイルスの影響により需要の激減したジャガイモが大量に余り、生産者を苦しめているそうです。貯蔵庫の天井高く積み上げられたジャガイモと生産者、約9万kgのジャガイモを市民に寄付する活動などが、記録されています。
このブログを見て強く感じたのは、写真という媒体がもつ情報を伝える力です。コロナウイルスが世界に蔓延することで出現した風景、人々の表情、ふと見せる仕草などを細部までとらえることでどんなに離れた場所の出来事も、目の前で起きていることのように現場の空気までを鮮明に伝えてくれます。写真にそのような力があることは知っていましたが、ライダー氏の写真を見て改めて深く思い知りました。
その要因は「距離感」にあるのかもしれません。ある写真家は「シャッターを押せば写真は写る、その場所にいかに自分が入り込めるかが重要」と言いますが、そのことに加え「被写体との距離感をどう保つか」で伝わり方が変わります。物理的距離、関係的距離ともに被写体との距離が近いと感情移入しやすくなる、遠いと景色として馴染む。これらの写真は絶妙な中間距離を通して状況を伝えています。
David Ryder
アメリカ・シアトルで活躍するフォトグラファー。The New York Times、The Washington Post、Reutersなど各出版物に写真を提供している。