命と経済、どちらが大切?
マスクで問いかけるアート作品
「lives and livelihoods」

当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウィルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。

“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。

今日のトピック

オーストラリアのアーティストであるフー・エイン・ウォンさん(huei yin wong)は、世界的な株式市場の急落をマスクに刺繍し、アート作品「lives and livelihoods」として発表しました。香港の恒生銀行のデータを元にニューヨーク証券取引所、ナスダック、日経平均株価、ロンドン証券取引所の変動を表しています。

SPREADはこう見る

命を守るための行動である外出自粛は、ウィルスから身は守れても、仕事ができない状況から経済的な危機に身をさらしていると言えます。

命と金のどちらが大事か?この2択に答えるなら当然「命」です。ただ「金がなければ生きていけない」という不安がジレンマを生み出しています。世界中の人々が直面しているこのジレンマに対し、フー・エイン・ウォンさんは作品を通して問いかけます。「命を救うために経済活動を止めますか?それとも、病気の人や高齢者、社会的弱者を見捨てていつものように仕事を続けますか?」。この問いは、同時に世界のリーダーたちが自身に問いかけるべきものだと、フーさんは言います。どれだけの命を経済のために犠牲にすればよいのでしょうか、人間の命の値段とはいったいいくらなのでしょうか、と。

私たちがミラノの友人から伝え聞いたところによると、欧州で最初に感染爆発が起きたイタリアでは、経済的損失は覚悟して都市封鎖を行い、人命を守ることを最優先しました。規制緩和が始まった各国で、どのくらいのダメージをどう回復していくのか、世界中の人たちがいま不安のなかにいます。

マスクと言えば、みなさんは、海外でマスクをしていて、周囲からジロジロ見られた経験はないでしょうか? 日本人には馴染みのあるマスクも欧米では、マスク=人前に出るときは使わないもの。マスクをするくらいなら家で寝ているべきという考えがあります。以前は欧米でマスクをしていると「あいつに近寄って大丈夫か?」と見られていたのです。

しかし、コロナ禍では欧米でもマスクをする人が増えているため、マスクへの認識自体が大きく変化しています。そんな欧米では、これまでマスクを使っていなかったからこそ、柔軟で大胆なアイデアのマスクが生まれているように見受けられます。日本ではマスクに対する固定観念があるため、使い方や仕様を大きく変えるという発想が出にくいのかもしれません。逆に考えれば、欧米の当たり前を日本から見ることで画期的なアイデアが生まれることもあるでしょう。イタリアではコロナ禍において「助け合い」の心が人々に強く浸透したと聞きました。価値観が変わったのです。苦難のときだからこそ、今までになかった発想のギフトを交換し合えるとよいかもしれません。End

▲本プロジェクトをレーダーチャードで示しました。6つの属性のうち、成果物のデザイン性を「Creativity」で評価しています。「Pure & Bold」は目的に対して一途な強さを感じるか、やりきっているかという、SPREADが自らの仕事において大切にしている視点です。

huei yin wong
オーストラリア・メルボルンを拠点とするアーティスト兼デザイナー。ジャック・レールトン・ウッドコック(Jack Railton-Woodcock)と共に広告関係のデザイン活動をしている。