当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウィルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。
これまで阪神・淡路大震災+クリエイティブ タイムライン マッピング プロジェクトなどを通して、“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREAD。彼らは、コロナ禍においてすでに行動を起こしているクリエイティブな活動をリサーチすることで、未来を考えるヒントを探ろうとしています。4月1日に始めた彼らのリサーチは、すでに世界各地の約250件のプロジェクトを収集。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していく予定です。
デザイナーの視点から取り上げるこれらの活動は、きっと私たちにも今の暮らしやこれからの社会を考えるきっかけを与えてくれるのではないでしょうか。
今日のトピック
オランダ・アムステルダムを拠点とするStudio Drift(スタジオ・ドリフト)は、医療従事者への敬意を伝えるため、ロッテルダム上空に赤く鼓動する立体的なハートを出現させました。このパフォーマンス「フランチャイズ・フリーダム」は、上空に数百のドローンを飛ばして表現する光の彫刻のような幻想的な作品です。ナチスからの解放記念日である5月5日にライブ配信され、現在もYoutube上で見ることができます。
SPREADはこう見る
本連載の第1回に取り上げたのは、このプロジェクトにStudio Driftのアート性だけではない、作品発表にあたっての様々な配慮を含め、社会に対する美しい姿勢を感じたからです。フランチャイズ・フリーダムは、過去に米国フロリダ州でのイベント「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ」や、ネバダ州での野外イベント「バーニングマン2018」でも披露されました。
アルゴリズムで制御された無数の動く光は、ドローンの群集とは思えないほど神秘的で、まるで視界いっぱいに広がる花火の光をスローモーションで見ているような感覚を生じさせます。炎や太陽光はもちろんのこと、イルミネーションといったさまざまな光には、魂を鎮める何かがあるのではないかと思えます。
災害をはじめとする緊急事態ではスピードが最優先され、クオリティはやむを得ない場合があります。しかし、この作品は、それ以前の実績があるからこそスピードとクオリティを両立し、まるで良い音楽は何度聞いても心に訴えかけてくるように作品動画を見るたびに新たな感動や気づきを与えてくれます。
また、このパフォーマンスはライブ配信されるまで開催場所が非公開にされました。観客が会場に集まってしまう事態を防ぎ、ソーシャル・ディスタンシングを守りながら鑑賞できたのです。タイミング、クオリティ、状況への配慮、既存作品の編集、鎮魂的な要素、喜び、メッセージ、すべてが見事に関わり合って成り立っています。
今年2月初旬、コロナウィルスが欧州で猛威を振るう直前にフランクフルトで立ち寄ったFrankfurter Kunstvereinで、彼らの作品「マテリアリズム」を見たことを思い出します。その作品は、鉛筆やiPhoneといった人工物を、それらをつくるために用いた材料に分解し、その色と質量をブロックとして再現していました。実物はありませんでしたが、大きなフォルクスワーゲンを解体した映像もありました。
色とサイズ違いのブロックは、それだけでも感服させられる佇まいですが、iPhoneなどに比べて少し大きめのアイテムが何かわかった瞬間、より深くプロジェクトを理解することができました。それは銃だったのです。日常にある人工物だけでも十分興味深い考察ながら、日常の延長線上に銃が組み込まれた途端、見つめる世界は広がります。彼らの行動には、社会とクリエイティブが真正面から溶け合う問いかけがあります。スタジオ・ドリフトは、アート作品を制作するスタジオですが、このような活動はデザインだと思いました。尊敬するデザインスタジオです。
Studio Drift
アーティストであるラルフ・ナウタ(Ralph Nauta)とロネケ・ゴルディン(Lonneke Gordijn)により2007年に設立された。テクノロジーを駆使したアート作品で知られる。