クルマのインテリア空間の変化
“乗る”から“過ごす”へ

新型コロナウイルスの感染拡大が、私たちの生活に大きな影響を及ぼしています。突然の休校・外出自粛要請・テレワークの推奨などによって自宅に引きこもる生活を余儀なくされ、窮屈さにストレスを感じている人も多いのではないでしょうか。このような状況でも気持ちを切り替えて、自宅で少しでも快適で充実した時間を過ごそうとする動きが広がっています。Instagramでは在宅勤務の頭文字をとったWFH(working from home)のハッシュタグや自宅で過ごす様子をストーリーズでシェアする「おうち時間スタンプ(STAY HOME)」機能が活用されていて、自宅で思い思いに楽しむ様子が数多く投稿されています。

家でお花見を楽しむ様子、手軽につくれる料理のレシピ、癒しグッズの紹介など、内容はバラエティに富んでいますが、インテリア関連の投稿に注目が集まっていることに気づきました。家で過ごす時間が長くなり、家に対する価値観の変化が生じたことがその理由ではないかと考えています。これまで家を「ただ生活するための場所」と捉えていた人たちが、自分好みのアレンジを加えて家を「ホッとできる心地良い空間に変えたい」という想いを強めている様子が感じられました。

このような動きは自動車にも広がりを見せており、その背景には自動運転技術の普及があると言われています。完全自動運転が実現してドライバーが運転から解放されると、クルマでの過ごし方を自由に選択できるようになり、クルマを「輸送手段」ではなく「移動する住空間」と捉える人が増えることが予測されます。そのような価値観の変化に備えて、居心地の良い空間の検討が積極的に進められているというわけです。

▲Audi AI:ME (2019)

乗員が車内でくつろげるリビングルームのような空間を演出するために、フロントシートにはラウンジチェアにヒントを得た曲線的なデザインが採用されています。また環境に配慮した素材を部屋のインテリアに活用する動きが近年広がっていますが、このトレンドは自動車のインテリアにも影響を与えており、上の写真でも木の質感を生かすように加工されたウッドパネルが随所に施されています。

▲BMW Vision iNEXT(2018)

部屋のインテリアではグレーが定番カラーとして人気を集めていましたが、近年はベージュなど温かみのある淡い有彩色にも注目が集まっています。例えば、BMW Vision iNEXTにおいても、淡いピンクがメインカラーとして採用されており、手織りのジャガードに使用された反対色のブルーがアクセントカラーとして空間を引き締めることで、ラウンジのようなゆったりした心地良さを提供しています。

▲ニッサン IMk(2019)

ベースカラーには明るい印象のライトグレーを採用し、高級感のあるカッパーを差し色として使うことで、カフェのようなリラックスできる快適さが演出されています。自動車のエクステリアではツートンカラーが増加傾向にありますが、温かみ・高級感・力強さなどを感じさせる色としてゴールド・ブラウン・ベージュへの注目度が高まっています。そのため、シルバー以外の金属をインテリアに採用してエクステリアとの統一感を図ろうとする動きが、今後増えていくことが予測されます。

私たちD-LOGでは自動車インテリア向けのCMF(Color・Material・Finish)提案活動も行っています。インテリアには人の手や身体が触れるものが多くあるため、触感など視覚以外の感覚にも配慮したCMFデザインが求められます。近年は価値観の多様化が進み変化のスピードも早まっているため将来予測が難しい状況ではありますが、変わりゆくものと変わらないものをしっかりと見極めて、ユーザーの気持ちに寄り添ったCMFデザインにこれからも取り組んでいきたいと思います。End