アートとテクノロジーの融合でアップデートされた「2020年台湾ランタンフェスティバルin台中」

▲提供:交通部觀光局、豪華朗機工

旧暦1月15日は、台湾において重要な節句のひとつ元宵節(げんしょうせつ)。ランタンを飾るならわしがあることから1990年代に始まったのが、「台湾ランタンフェスティバル」だ。毎年開催地を変え、地方の政府と台湾観光局との合同で実施され、期間中の総来場者数は1,000万人をゆうに超える。

31回目を迎えた2020年は台中で開催され、「璀燦台中、曙光再旺(きらめく台中、再び昇るご来光)」をテーマに、大小23のエリアで構成された。注目すべきはこの伝統的なイベントが、アートとテクノロジーの融合によりアップデートされたことだろう。

教師と教え子が手がけた、ふたつのメインランタン

これまでのランタンフェスティバルは、伝統的なモチーフのランタンが鮮やかに光輝く様子を鑑賞するのが主だったが、今年は違っていた。会場の中心部に設置されるふたつのメインランタンの製作には国際的に活躍するアーティストが起用され、アートとテクノロジーの融合による「ランタンフェスティバル2.0」へのアップデートが試みられた。

メインランタンのひとつ、「森生守護(森林の生態系保護)- 光の樹」を手がけたのは、瀬戸内国際芸術祭への出品経験もある林舜龍(リン・シュンロン)氏。

▲提供:交通部觀光局

ひとつの種が空を覆うほどの大木になるさまを表し、色とりどりの花や蝶が舞うなか、梢では台湾固有種の鳥・ミミジロチメドリの家族が巣をつくっている。台湾の人々が一致団結し、この土地が繁栄することを願いが込められた作品だ。

もうひとつのメインランタン「永晝之心(白夜の心)」を手がけたのは、テクノロジーやアートなど、異なる分野のスペシャリストによるチーム「豪華朗機工 LuxuryLogico」。台湾のテクノロジーアートシーンを牽引する存在だ。彼らは2017年夏季ユニバーシアードの聖火台を手がけたことでも話題になった。

▲現場を訪れたときには、花が動いていた。そのあまりに自然な動きを見て「生命のリズムを感じる」と感想をもらした観客もいたそうだ。

これらふたつのメインランタンによる合同演出のショーなど、作品同士のコラボレーションも行われた。偶然にも林舜龍氏は豪華朗機工のメンバーのひとりである張耿華(ジャン・ゲンファー)氏の高校時代の教師だった。台湾ではメインランタンを手がけたふたりに師弟関係があったこともまた、話題になっている。

▲1日に数回、光と音による演出が実施される。

テクノロジーとアート、そして地方産業の導入

今回会場にて作品を紹介してくれたのは、メインランタンのひとつ永晝之心を手がけた豪華朗機工の張耿華氏。

▲永晝之心(白夜の心)を手がけた「豪華朗機工 LuxuryLogico」。左から、陳志建(チン・ズージェン)氏、張耿華(ジャン・ゲンファー)氏、林昆穎(リン・クンイン)氏。全員が1980年代生まれだ。提供:豪華朗機工

今回の台湾ランタンフェスティバルは、2018年に開催された「台中世界花卉博覧会」の跡地で開催された。「永晝之心」は、その時に豪華朗機工が発表した作品「聆聽花開的聲音(開花の音に耳を澄ます)」を元にして作られている。

697個のパーツでできた赤い花によって構成され、「世界一巨大な機械の花」として話題になった同作品は、今回の台湾ランタンフェスティバルに向けて姿を変え、ライティングや音楽なども含めたひとつのランドマークへとアップデートされた。

高さ15メートルの球体は、光を美しく拡散させる白い布をまとった機械でできた花の集合体だ。内側と外側から当てられる照明により、さまざまな表情を見せる。さらに、音楽に合わせてまるで魂を持っているかのように軽やかに動く。永晝之心(白夜の心)の名前通り、昼も夜も異なる表情を見せ、来場者を魅了した。

「聆聽花開的聲音」と「永晝之心」の製作において、注目したいのが地方産業との協業によってつくられた点だ。台中はもともと精密工業が発達している。ほとんどの技術を地元の12の企業による支援を受けて実現した。市場価格で換算すると2億元(日本円でおよそ8億円)ほどにのぼる。

例えば、機械の花が動くためにたくさんのモーターが使われているが、これには台中に本社のあるハイウィン(上銀科技)から、モーターの提供など総額約2,000万元(日本円でおよそ8,000万円)の支援を得たものだ。

▲提供:交通部觀光局、豪華朗機工

また、ひとつひとつの花はリモートコントロールで動くうえ、屋外に常設される作品なので雨風や紫外線にも強くなければならない。そこで、耐性が高く、軽くて伸縮性に優れた傘用の布が採用された。それも地元の傘メーカー「大振豐洋傘」による提供を受けている。

加えられたインタラクティブ性

これまでは観衆が「眺める」ものだったランタンだが、「永晝之心」にはインタラクティブ性が与えられた。
たとえば「おじぎ草モード」に切り替えると、人間の出した音や声に反応して花が閉じ、ライトが消える。時間が経つに連れ、またゆっくりと花が咲きはじめ、ライトも少しずつ点灯してゆく。これには風の音と人間の音を聞き分けるために「フーリエ変換」が用いられているという。

▲「おじぎ草モード」で遊ぶ子どもたち

▲地下の制御室。作品の状態はひとつひとつの花単位で把握され、スマートフォンからも操作できる。

今回のプロジェクトを誇りに思ったハイウィン(上銀科技)の社員らは、自発的に7,000枚のチケットを事前購入し、家族を連れて現場を訪れたという。「彼らは自分たちの製品が実際に使われているところを目の当たりにする機会がありません。今回は普段の仕事がアートにつながることを経験できたと、ものすごい反響でした」と張耿華氏は語る。

▲球体の模型を手にする張耿華氏。構造的に優れたバックミンスター・フラー氏のジオデシック・ドームを参考にしている。

サスティナブルをキーワードに、常設作品に

今回の「台湾ランタンフェスティバルin台中」の重要なキーワードのひとつに「サスティナブル」があった。これまでは花博やランタンフェスティバルなど、大規模なイベントが終了するたびに大量のゴミや廃棄物が出ることを問題視する人も多かったことを受けている。今回のふたつのメインランタンは、今後もこの場所に常設されるという。


▲家族連れやカップルなど、たくさんの人が訪れる。日暮れ間際から夜まで滞在し、その移り変わりを楽しむのがおすすめ。

ランタンフェスティバルにつながる2018年の台中花博でランドスケープを担当したのは、台湾を代表する気鋭の建築家・吳書原(ウー・シューユエン)氏。会場全体で台湾の大自然の多様性を表現するとともに、「豪華朗機工」との間でも、「台湾のランドマークになるものをつくろう」という共通の概念を持って臨んだそうだ。

次回2021年の台湾ランタンフェスティバルは、「台湾のシリコンバレー」と呼ばれる新竹市での実施が決定している。開催期間は2021年2月26日〜3月7日の予定だ。春節が終わった直後のおめでたいムードを堪能でき、旅行で訪れるのにもぴったりの時期。台湾への旅行を計画してみてはいかがだろうか。(文/写真 近藤弥生子)End

2020台湾ランタンフェスティバルin台中

会期
メインエリア「后里花博園區」:2020年2月8日(土)〜2月23日(日)
サブエリア「台中文心森林公園」:2020年12月21日(土)〜2月23日(日)
詳細
https://theme.taiwan.net.tw/2020TaiwanLantern/jp