高まるサスティナビリティへの意識
消費財国際見本市「アンビエンテ2020」レポート

ドイツのフランクフルトで開催された、2020年のアンビエンテ国際消費財見本市は、93カ国から4635企業(内日本企業は94社)が出展し、会期中、およそ160カ国から10万8千人のバイヤーが来場した。新型コロナウィルスが懸念される中、欧州一帯に上陸した台風も影響して、渡航の断念、交通手段の遅延によるビジネスへの影響も生じたが、とりわけ日本、エストニア、トルコ、コロンビア、ルーマニア、ヨルダンからの来場者数が増加し、参加者より高い満足度を得て幕を閉じた。




▲キャンドルの長さを活かし、会期後の再利用可能な独創的なキャンドルメーカーEngels Kerzen GmbHのブース ©Engels Kerzen GmbH

▲植物のアレンジで世界観を引き立たせるKINTO Photo by Kaoru Urata


▲無垢の木や合板で設えたブースも目立つ Photo by Kaoru Urata




新設されたHoReCaホール

今年は、コントラクト業界に向けたホスピタリティの在り方に焦点を当てた、ホテル、レストラン、ケータリングを総括するHoReCaホールが新設された。特別企画HoReCa Academyでは、専門家たちによるプレゼンテーション、パネルディスカッションのプログラムも充実した。持ち時間5分間の出展社によるスピードデーティングでは、13社が新商品の特性や独自性について紹介し、多角的なインスピレーションや新しいアイディアに触れることができ、効率よく会場内の情報を収集する手段にもつながった。

▲HoReCa Academyでのスピードデーティングの様子 ©Messe Frankfurt Exhibition GmbH

再生可能な紙やテキスタイル、並びにセメント、レンガ、焼き杉などの建材にもインスピレーションを得て、機能性、普遍性、優雅さを導き出しながら、素材の持つ質感と色彩を活かし、それらの多様性と意外性を演出したトレンドセッターStilbüro bora.herke.palmisanoによる特別企画展「Trends」への関心は高い。

来たるトレンドを発信する「Trends」でセレクトされた、桜島の軽石にプリザーブドフラワーとアロマを組み合わせたオブジェ「Hanayama」をデザインするのは、日本人デザイナー亀井紀彦氏(Kamihikoworks)。ブラジルの極一部の地域にしか生息しない《黄金の草=カッピンドウラード》でジュエリーブランド「コロリーダス」を手がける山本康子氏は、日本のものづくりとフェアトレードを取り入れる。双方とも日本で開催している姉妹見本市「IFFT/インテリア ライフスタイル リビング」のYoung Designer Award 2019の副賞で、新鋭デザイナーを紹介する「Talents」に出展し、欧州のバイヤーからの反応は好評であった。

▲トレンドセッターStilbüro bora.herke.palmisanoによるTrendsコーナー Photo by Pietro Sutera ©Messe Frankfurt Exhibition GmbH

▲HoReCaホールの様子 Photo by Marc Jacquemin ©Messe Frankfurt Exhibition GmbH

▲亀井紀彦氏(Kamihikoworks)による「Hanayama」 Photo by Kaoru Urata

▲ジュエリーブランド「コロリーダス」を手がける山本康子氏のマテリアル《黄金の草=カッピンドウラード》 Photo by Kaoru Urata

他にもドイツ人デザイナーBabette Wiezorekの「Additive Addicted」は、自ら設計したアルゴリズムを3Dプリンターにプログラミングさせて、立体的な動きや編んであるかのようなモチーフと色のグラデーションを与えた陶器を製作。ドイツとスペインを拠点にするAnima Onaは、新しいカラー技術GRDXKN®をシルクにプリントしたカーペットを紹介。この技術は、柔軟性と立体感を生地に与えつつ、滑り止め効果もある。新鋭デザイナーたちの視点は、成熟した資本主義社会が着手していくべき「イノベーション」への問いを見据えているようだ。

▲Babette Wiezorekの「Additive Addicted」 ©Additive Addicted

▲新しいカラー技術GRDXKN®をシルクにプリントしたカーペットを紹介したAnima Ona Photo by Kaoru Urata




サスティナビリティへの意識

便利なキッチン用品や家庭雑貨用品を紹介する「Solutions」では、デザイナーのSebastien Bergneがキュレーションを担当。マイボトルや収納方法、生分解性ある素材に着眼した。昨今、自然環境や資源、製造方法、社会的責任である「エシカル」への配慮並びに「サスティナブル」「エコロジー」「リサイクル」「アップサイクル」への取り組みは盛んだ。さらに高い理念を志すメーカー、企業、デザイナーの姿勢は、着実に水準を向上させている。

▲液体石鹸を使い終わったらリフィルするか石鹸として使い切る「Soapbottle」(Joanna Breitenhuber) Photo by Urata Kaoru

▲ポーランドのPractic社は、オーガニックヘンプ、大麻、トウキビの植物を利用した容器を展開する。 Photo by Kaoru Urata

▲ハチのワックスと植物性樹脂で再利用可能なラップを提供する米国企業Bee’s Wrapは、ハチの保護教育にも専念。 Photo by Kaoru Urata

▲お洒落な健康アクセサリーツールを天然素材でデザインするブランドKenko ©Kenko

▲「マイボトル・カップ」や「マイ箸・カトラリー」もブームであるように、飲み終わった後に折りたたみと伸縮が簡単で再利用できるタンブラーやカップのニューヨーク発のブランド「Stojo」 Photo by Kaoru Urata

会場内には、厳選なる審査を経て、Ethical Styleラベルを取得した49カ国による314企業が見られた。消耗品のトレーサビリティを求める消費者の関心が底辺から動向を左右しているともいえよう。プラスチック素材を代用する天然素材の加工技術も絶えず刷新されてきている。今日のエコ商品は、地味なイメージを払拭していて、カラフルで心地よい質感でより魅力的なデザインを提供する。

▲フランスのブランドEKOBOと同系列のDOMINECO、UNICA TERRAも竹繊維、コルク、オーガニックコットン、PET素材を扱う食器やランチボックスでアウトドア用品にも力を入れる。 Photo by Kaoru Urata

▲Solutionsコーナーでもセレクトされた「Air Up」は、添加物を一切使用しないリングを口元にはめるだけで、ライムなどの味覚を楽しめる水筒 Photo by Kaoru Urata

竹のパウダーとコーンスターチを材料にした器で知られる日本のブランド「ideaco」、簡単な動作で折りたためるmarna社のエコバッグ「Shupatto」、磁器の質感と素材の魅力を伝える深山社など、日本には多くのものづくりのノウハウがある。

▲竹のパウダーとコーンスターチを材料にした器で知られる日本のブランド「ideaco」 Photo by Kaoru Urata

▲東京和紙によるペーパーワーク ©東京和紙

日本独自の伝統とライフスタイルを背景に生まれた製品を扱う「Japan Style」には、日本企業22社が集結。会期中、お酒やお茶でもてなすBar Japan Style(メッセフランクフルト ジャパン独自のブース)では、出展者による日本のものづくりのワークショップも行われた。

▲Japan Styleブースの様子

▲1本の紙紐からオブジェを制作するワークショップ

さらに「サスティナブル」のテーマで注目したいのは、人的資源を根底に考慮する「フェアトレード」ビジネスである。世界フェアトレード連盟(WFTO)に加盟する団体が、公正な貿易の持続可能を証明するラベルを取得した企業を集結したホールもあった。新しいビジネスモデルを世界に普及させている現状だ。また、紛争や迫害により祖国を離れて暮らす難民の数は、2018年末に7000万人を超えた。避難先での生活年月は平均して17年間と、とても長い。

▲MADE51のブース ©Messe Frankfurt Exhibition GmbH

その間、彼らが安全と尊厳を持って生活できるよう国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が後押しするグローバルブランド「MADE51」は、難民職人と地元企業が一丸となり、ホームアクセサリー商品をデザインして制作する。ローカルビジネスとサスティナブル価値の連鎖を定着させ、難民が安定した賃金を得られる策である。2019年末には、アラブ首長国連邦のVirgin Megastoreの協賛で、店頭販売を開始した。今年は、ロンドンのポップアップストア、東京オリンピック・パラリンピックに向けてもイベントが予定されている。2021年には、それぞれに独自のストーリーを培った唯一の手工芸品が、フランス、ドイツ、アメリカなど5つの直営店に並ぶ計画も準備中だ。

▲「MADE51」グローバルリーダーHeidi Christ氏によるプレゼンテーション Photo by Pietro Sutera ©Messe Frankfurt Exhibition GmbH

▲「MADE51」ブランドに携わるブルキナファソの職人たち ©Made51

使い捨ての消費社会から「サスティナブル」を目指すポストコンシューマー時代へと移行していく過程で、各人の消費方法と平行に、企業やメーカーの生産環境も問われる時代だ。それは、限られた資源と同様に人的財産も見直されていくべきであることを示唆しているといえよう。(取材・文/浦田 薫)End