スリープテックの最前線デバイス。
スイス発の
「インスタドリーマー」と日本の
「ウェアラ」

近年、デジタル技術によって眠りの質の改善を目的とするスリープテック分野の研究が進み、それを実現する興味深いデバイスもいろいろと登場している。今回は、良い夢を見るための製品と良い眠りを得るための製品、2つのウェアラブルデバイスを採り上げたい。

まず、スイスのスタートアップ、インスタドリーマーが開発中の同名のデバイスは、日常的にルシッドドリームを見るための製品だ。ルシッドドリームは、日本語では明晰夢と訳され、睡眠中の人物が夢であることを自覚しながら見る夢を指す。そして、ルシッドドリームでは、夢の内容を自分の意思によって変化させることができ、慣れればその状況やストーリーを自在に変えられるとさえいわれている。

これはオカルトやスピリチュアルな体験ではなく、筆者自身も経験したことがあり、ルシッドドリームは誰にでも起こり得る生理現象の1つとされる。しかし、常に起こるとは限らないことや夢自体が記憶に残らないケースが多いために、実際にルシッドドリームを体験しても忘れている可能性がある。しかし、繰り返しルシッドドリームを見たと証言する人々の文献もあり、特定の条件が揃えば意図的にルシッドドリームを引き起こすことは可能と考えられている。

インスタドリーマーは常時装着することを前提に、覚醒時にはときおり僅かな振動を発生してデバイスの存在とその時点で意識があることをユーザーに認識させる。そして、睡眠時には内蔵された各種センサーを利用してユーザーの状態を把握し、レム睡眠状態にあるときに、覚醒時と同じ振動を発生する。

レム睡眠は、身体は休息しているが、脳は覚醒して夢を見ている状態であり、インスタドリーマーの振動は、この「夢を見ている」という事実を睡眠中のユーザーに認識させるためのきっかけとなる。覚醒時の振動は、その条件反射を起こすためのトレーニング効果を持っており、振動の強さは、あくまでも夢の自覚には十分だが睡眠中のユーザーを起こすほどではないレベルに調整されている。また、起床時にはより強い振動がアラーム代わりとなる。実際にプロトタイプによるテストでは、被験者の70%がインスタドリーマー利用の初日からルシッドドリームを体験することができたという。

その目的から本体にはディスプレイを必要としないので、外観はシンプルなシリコーン製のベルトそのものであり、バッテリーも1回の充電で最大数週間は持つとされている。

これは筆者の私見だが、一般的な夢のリアリティを支えているものが、脳内のどこかに保存された記憶やイメージであるとすれば、適切な刺激によってそれらを任意に呼び出し、再構成することで、VRゴーグルなどを使わずに仮想現実の世界を体験することも、理論上は不可能ではないはずだ(ただし、見たことがないものや想像できないものは再現できず、乳幼児のように実体験が乏しい場合にも通用しない手法である)。インスタドリーマーは、そのための第一歩なのかもしれない。

一方で、良い夢を見るには、良い睡眠が必要だ。ウェアラブルであることから想起された製品名を持つウェアラは、モーション、温度・気圧、心拍の各センサーと約1カ月の連続バッテリー駆動により、フィットネスのみならず実用的な睡眠トラッカーとしての機能性を実現した国産デバイスである。

筑波大学の国際統合睡眠医科学研究機構との共同研究や睡眠評価研究機構代表の白川修一郎氏の監修の下でウェアラを開発したトリニティは、健康や睡眠に関するビッグデータが海外の企業に独占されてしまうことを危惧し、ウェアラで取得されたデータを日本の研究機関に提供して役立ててもらうという計画を持っている。

製品デザインはクリエイティブユニットのテントが担当し、センサーやバッテリー、タッチ&感圧スイッチなどを収めた「コア」と呼ばれる機能ユニットと、エラストマー、レザー、ナイロンなど、サードパーティ製を含む多彩なバンドを組み合わせることで、テクノロジーを内側に隠しながら、ファッションアイテムとしても楽しめる工夫がなされた。

エラストマーは、シリコーンの2倍の比重を持つルオロエラストマーを使用し、高い質感や経年劣化が少ない耐久性を実現。また、オプションのメタル製ウォッチプレートを付けることで、市販の一般的な時計バンドも利用できる。

特に、ステンレス製のタッチスイッチをバンドへの固定にも利用するアイデアは秀逸で、コアの側面をつまむようにして操作できる感圧スイッチや発光時のみ浮かび上がる5つのLEDによるステータス表示など、メカ的なものを極力感じさせないデザイン処理が施されている。さらに、付属する充電トレイ自体が販売時のパッケージの一部となっていたり、バンドの3Dデータと2D設計データを公開して、個人が自由にカスタムバンドをつくれるようにするなど、これまでにない試みも興味深い。

インスタドリーマーもウェアラも、2020年初頭の出荷を予定しているが、どちらも市場での反応が楽しみだ。End