ルート・ブリュック&タピオ・ヴィルカラ夫妻の足跡をたどり、ヘルシンキでヴィンテージショッピング

▲クルーナで見つけたルート・ブリュックのプレート「Lady and the Tramp」、1945年アラビア製

日本で巡回中の回顧展で一躍人気に火がついたフィンランド人アーティスト、ルート・ブリュック。アラビアの専属アーティストとして活躍し、多くの陶板やテキスタイルなどを残している。そして、フィンランドデザイン界の巨匠、タピオ・ヴィルカラは彼女の夫。ふたりの娘マーリア・ヴィルカラが両親の思い出とともに、ヘルシンキ市内で彼らの作品に出会えるお勧めのヴィンテージショップを教えてくれた。

ラップランドで創作に励んだ、アーティストとデザイナーの夫妻

フィンランド最大のミュージアム、ヘルシンキ郊外のエスポーにあり、EMMAと呼ばれるエスポー近代美術館では、「ブリュック&ヴィルカラ ヴィジブル・ストレージ」としてルート・ブリュックとタピオ・ヴィルカラの作品を常設展示している。

「ここではふたりの作品を展覧会として見るのではなく、ふたりのアーティストの人生をたどりながら、その軌跡を体感できるような構成になっています」と言うのは、ふたりの娘であり、自身もコンテンポラリーアーティストであるマーリア・ヴィルカラ。子どもの頃には、毎夏家族でフィンランド北部のラップランドに行ったという。「隣の家は25km先、電気も通っていない場所で、焚き火でご飯をつくる生活でした。夏の間沈まない陽の光を利用して、両親はそれぞれ静かに仕事に集中していたのを覚えています」。そんな場所でも郵便局員はやってきて、そこで木を彫ってつくったモールドや指示書を郵便で送っていたのだそうだ。

▲エスポー近代美術館の「ブリュック&ヴィルカラ ヴィジブル・ストレージ」でルート・ブリュックとタピオ・ヴィルカラの作品に囲まれ、両親との思い出を話すマリア・ヴィルカラ。2017年にオープンしたこの場所では、タピオ・ヴィルカラ・ルート・ブリュック財団のコレクションを常設展示している。

優しく温かみあふれるルート・ブリュックの作品、シンプルで機能的なタピオ・ヴィルカラのデザイン。それぞれ作風こそ違えど、マーリアによるとふたりはお互いの作品に対して一番厳しい批評家だったという。時代ごとに並ぶふたりの作品を追いながら、ラップランドの大自然のなかでひたすら創作を続けた日々から生まれたという背景を知ると、目の前にある作品に双方の人生の物語が感じられ、作品との距離が縮まる気持ちになる。

▲ルート・ブリュックのティーポットとタピオ・ヴィルカラのフラワーベース「カンタレッリ」。同時代のふたりの作品が並ぶ構成から、それぞれの歩みをたどることができる。

そうして見ているうちに、いつしかふたりの作品に魅了され、旅の記念にそんな彼らの作品を手に入れたいと思う人も多いのではないだろうか? マーリアにヘルシンキ市内で彼らの作品に出会えるお勧めを聞くと、2つのヴィンテージショップを教えてくれた。

イッタラのデザイナーの妻が営む、ガラス専門店

そのうちのひとつは、ガラス専門のLASIKAMMARI(ラシカンマーリ)。イッタラやヌータヤルヴィ、リーヒマキなど、フィンランド各地でつくられたガラス製品が所狭しと並ぶ。

オーナーのギッタン・コッコは、「もともとイッタラで店を開きましたが、ヘルシンキに移って来ました」と言う。2017年に亡くなった彼女の夫は、イッタラのデザイナーであり、ガラス部門のディレクターも務めていたヴァルト・コッコ。タピオ・ヴィルカラとともに働いていたという。そのほか、カイ・フランクやオイバ・トイッカら、フィンランドを代表するデザイナーたちによるプロダクトは手頃な日用品からアート作品まで幅広く、どれも状態の良いものが良心的な価格で揃っている。

▲小さなショップだが、通りからもウィンドウ越しにたくさんのガラス製品が見える。ランプもガラス製で、オーナーの夫ヴァルト・コッコはイッタラでガラスの照明器具もデザインしていた。

▲オーナーのギッタン・コッコ。手にしているのは、ヌータヤルヴィでつくられたカイ・フランクのフラワーベース。

▲ゴブレット「Viktor」や角の形をしたビアグラス「Harald」など、オーナーの夫であったヴァルト・コッコの作品を集めたコーナー。

LASIKAMMARI
Liisankatu 9
00170 Helsinki
Tel: +358 (0)40 7370 454

ストーリーとともに受け継がれるフィンランドデザイン

つづいて、ラシカンマーリの隣のブロックにあるのがブルーの看板が目印のKruuna(クルーナ)。地階にも広がる店内には、家具、照明、テキスタイル、陶器やガラスのテーブルウェアや、一点もののアートまで、幅広くフィンランドデザインが揃う。

▲クルーナのオーナー、パシ・プサ。ひとつひとつのアイテムが持つストーリーを聞いていると、時間が経つのを忘れてしまう。

オーナーのパシ・プサは「日本でルート・ブリュックの人気が出て、彼女の作品を目当てにやって来る日本人のお客さんが増えました。それによってフィンランド国内での彼女の知名度も上がっています」と言う。

彼の審美眼と独自のネットワークで仕入れるアイテムは、出どころがはっきりしているものが多く、その作品が生まれた背景までしっかりと伝えられている。訪れたときに店頭に飾られていたヴィルガー・カイピアイネンのユニークピースは、本人の事務所に飾られていたものだという。質問をすると、目を輝かせながらそれぞれの製品が持つストーリーを教えてくれるパシ・プサ。店内には彼のものへの愛情が詰まっている。

▲ヴィルガー・カイピアイネンの事務所に飾られていたという作品。右手はカイピアイネンの自画像で、友人のオペラ歌手イルマ・ウリラと仲違いしたときのことを描いたという。全体に虹色に輝く釉薬でストライプが描かれている。

Kruuna
Maurinkatu 8-12
00170 Helsinki
Tel: +358 (0)40 5509001

蚤の市と違い、いつでも行けて適正な価格設定がされているのも旅行者にはうれしいポイント。ヘルシンキを訪れるなら、ルート・ヴリュックやタピオ・ヴィルカラをはじめ、デザイナーたちのレアなアイテムを見つけられるショップで、一歩深い北欧ヴィテージの世界を覗いてみてはいかがだろうか。End