REPORT | プロダクト / 展覧会
2019.12.23 17:48
2019年のミラノデザインウィークで、事前情報なしに会期中に口コミで広がり、多くのジャーナリストから高く評価された小さな展示があったのをご存知だろうか。
ありふれた日用品から毎回ひとつのプロダクトをテーマに選んで深く掘り下げ、その結果をジャーナルと展示で伝えるフランスのデザイン集団「コレクションズタイポロジー」による「Typologie – The Cork Stopper and The Wine Bottle」だ。ワインボトルとコルクストッパーの歴史や製造方法をリサーチし、その歴史や背景にあるストーリーを紐解く内容だった。
ミラノのサンタンブロージョにある小さなスタジオで開かれた極めてシンプルな展示は、各ブランドが発表した大量の新作やSNS映えを狙った派手な演出が溢れるミラノデザインウィークにおいて、静かにデザインの本質を問いかけていた。
フランス生まれの若手プロダクトデザイナーたちによる“類型学”
フランス生まれのプロダクトデザイナー4人が2016年に立ち上げたデザイン集団、コレクションズタイポロジーは、これまで4冊のジャーナル「Typologie」を刊行している。2017年のファーストプロジェクトでは、フランス発祥の球技ペタンクに使われる金属製のボール「ペタンクボール」をテーマに選び、ロンドンのジャスパー・モリソンのショップで展示を実施。次いで、先述の「ワインボトル」と「コルクストッパー」をミラノで発表した。
そして、この12月7日、野菜や果物などを運ぶための「木製クレート」のリサーチを含む、彼らの活動の集大成となる最新プロジェクト「Typology: An Ongoing Study of Everyday Items」展がスタートした。会場はドイツのヴィトラキャンパス内にあるヴィトラ・デザインミュージアム・ギャラリーだ。
地道なフィールドワークから見えてくる、デザインの理由
「普段あまりにも身近で見過ごされがちな日用品を、人々が新たな視点で捉え直すきっかけをつくりたい。歴史、製造工程、使用方法という3つの指標から掘り下げることで、そのプロダクトの全容がわかってきます」とメンバーのひとり、テロニウス・グピルは説明した。
「まず工場を訪ねることからリサーチを始めますが、その過程でフランスにはたくさんのクレート工場があることがわかりました。クレートは地域性とのつながりが深い生産システムで、素材となる木を有する森や、使われる市場とも密接な関係にあります。昔は、野菜や果物といった農作物を隣村に運ぶために手編みのバスケットを使い、それは人や馬の形にフィットする形をしていました。時代とともにより工業的になり、やがてクレートができたのです」とギョーム・ブロジェ。
なぜ、そのものは現在のような形になったのか? クレートを例にとると、地産地消だった農作物が、現在ではアフリカやブラジルといった遥か遠い国から送られてくる。輸送を終えたクレートをわざわざ返送することはなく、一度の使用に耐えられればよい。クレートのサイズは農作物自体やトラックの大きさからの逆算で決まりるといった具合に、すべてに理由がある計算されたデザインだ。そこには、時代に即した社会的、政治的、技術的な変化や進化が反映され、私たちがどのようにものを消費しているかが浮かび上がってくる。ひとり一人の日々の選択が一段と重視される現代の消費社会において、ものとの関係性を考えるきっかけになる展示だろう。
「Typology: An Ongoing Study of Everyday Items」展は2020年5月3日まで。規模は小さいながら、ぜひ注目したい展覧会であり、テーマであり、デザイン集団だ。