民藝好きの人にとって、12月は“館展”の月だ。“館展”とは“日本民藝館展”のこと。目黒区駒場の日本民藝館は年に4回の企画展と、この“日本民藝館展—新作工藝公募展”が開かれる。
「民藝が公募展?」と、思われる方も多いかもしれないが、1936年に開設された日本民藝館は開館当初から“新作工芸品”の展覧会を開いており、1959年から“日本民藝館展”という名前で開催が続いている。
この“館展”の特徴は「買えること」。いつもは「見学する」場所に並ぶ品が購入できるのは、非日常的な感覚と特別感がある。それも、全国の作り手が、一年に一度の公募展を目指して凌り、厳正な審査を勝ち抜いたものを手に入れることができるのだから、館展初日は開館を待ちわびる多くの人が、朝早くから列をつくる。今年の初日となった、12月14日は10時の開館に先駆け、8時から300枚近くの整理券が配られたという。
ただし、会場では日本民藝館賞を頂点とした入賞作品と入選作品が予約で販売される形式なので、購入を焦らずとも見ることができる。また、準入選という入選には至らなかったが、館展の趣旨に適した応募作はその場で購入し、持ち帰ることができる。
さて、この民藝館展だが、他の公募展とはかなり違った点がいくつかある。一つは、制作者だけでなく、“配り手”も応募することができることだ。
柳宗悦らが大正15年(1926年)に「民藝」を提唱し,早くもその6年後の昭和7年(1932年)には、“見つけ、買い支え、広げる”役割を担う民藝店が生まれた。作り手が安心して作ることに専念出来る様に売り先を見つけ、使い手に繋げる役割。そして使い手がいつでも、安心して、健やかな品物を手に入れる事ができる役割を担う民藝店は、民藝の世界で、“繋ぎ手”でも“売り手”でもなく、“配り手”と呼ばれ、その歴史には欠くことのできない存在だ。(この辺りに関しては、過去の記事をご参照いただければ幸いだ。)
ちょっと意外に思う人もいるかもしれないが、日本民藝館のスタッフは若い人が多い。
6〜7年前、数人の2〜30代の民藝館のスタッフと知己を得た。秋口、彼らから「日本民藝館に出展してみませんか。“つなぎ手”として、問屋のあなたが何を出してくれるか楽しみです」と、言われた。正直、民藝という存在が自分の中では大きすぎて、そんな大それたこと…と、現実味がなかった。だが、日を追うごとに、民藝に関われるこの貴重なチャンスを逃す手はない、と思うようになり、足を踏み入れることにした。
もう一つの特異点であり素晴らしさは、「講評会がある」ことだ。
館展の一般公開の数日前、表彰式と講評会が開かれる。講評会は素材ごとに分かれて、割り当てられた展示室で行われる。
部屋の奥に審査員の先生が座り、その前に机が置かれ、講評を待つ出品者や配り手(出品した人だけが講評会に参加できるため、出品者のほか、配り手も講評を受ける事ができる)が座る。素材によって講評の仕方は違うが、陶磁器では講評を希望する人間が手を挙げると、スタッフの人が、“落選品”を持って来てくれる。入選作はすでに陳列されているので、この場での講評は落選作に絞られる。
さて、「凌ぎを削って」と前述したが、これは語弊があるかもしれない。民藝の人たちが好んで語るのが「“館展”は健康診断だから」という言葉だ。あまり頑張りすぎて、我を出して、コレステロールが溜まった様なものを作れば、審査員はすぐに見抜き、落選する。健やかに、日々の仕事を全うしたものが評価される。それが館展なのだ、と。
若いが、もう何年も館展に出品し、連続して入選している作り手が、今年は落選したらしい。落選作を前に、落選理由を先生に問うと、顔馴染みである先生は、弟子を諭す様に「あなた、数年前に出品したあの皿は、あんなにのびやかな線を描いていたじゃない。あれを思い出して」と指摘した。だが、さらに続く言葉は、“配り手”の存在の大きさを感じさせるものだった。
「あなた、今回、A工藝店から出品したものは入選したでしょう」と。同じ作り手、同じ様な品物を、A工藝店が出品し、それは入選しているという。同じ作り手のものなのに、かたや入選。こなた落選。どういうことかというと、その工藝店は、上り窯の“窯出し”に合わせてその窯に赴き、館展に出すためのうつわを選んだらしい。
熟練の作り手でも、一窯全てが完璧に出来るわけではない。ましてや、火の廻りや窯詰めの仕方、気候によっても、焼き上がりは変わってくる。この時こそ、配り手の「選ぶ目」がものをいう。それを目の当たりにした、瞬間だった。
ちなみに、私が持っていったものは、初回は見事に外して、落選となった。作り手には申し訳なかったが、これに対して、審査員の先生方のアドバイスは丁寧、かつ具体的だった。
「土瓶の口が小さすぎるから」「絵がもっと無心に描けていたら」と。だが、その後に続く言葉は「この民藝館に並ぶ、柳先生が選ばれたものから学び、また精進し、来年も挑戦してぜひ見せてください」という一言だった。
一般的な公募展は、受かった人にしか評価をしない。落選した人は、送料着払いで送り返されて、それで終わりだ。落選理由がわからず、二度とその公募展に応募しない、という人も多い。だが、この館展の「みんなでいいものを目指そう。君たちも我々の仲間に入ろう」という気持ち。
今年、奨励賞を受賞した栃木県の陶芸家・粕谷完二さんは、講評会を糧に精進した事が結実した、と表彰式で評価されていた。
柳宗悦は元々は、志賀直哉、武者小路実篤らと「白樺」を立ち上げた人物だった。この「友愛」の精神に満ち溢れた講評会こそ、民藝館展の民藝館展たる所以なのでは、と思うのだった。
2019年度 日本民藝館展 -新作工藝公募展-
- 会期
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2019年12月14日(土)~12月25日(水)
*休館日 月曜日
*西館公開日 12月18日(水)、12月21日(土) - 開館時間
- 10:00-17:00(入館は16:30まで)
- 入館料
- 一般 1,100円 大高生 600円 中小生 200円
- 会場
- 東京都目黒区駒場4-3-33
- 詳細
- http://mingeikan.or.jp/events/special/201912.html
《前回のおまけ》
大阪・昭和町の<暮らし用品>さんは昭和初期に建てられた長屋でお店を営まれています。とても丁寧に使われている長屋でこのエリアだけ、タイムトリップした様な錯覚を起こす場所です。