4回目を迎えた上海ミラノサローネの目論見とは? イタリアブランドとサテリテ受賞者に聞く

4回目となる「上海ミラノサローネ」が11月20日〜11月22日まで、中国・上海のエキシビションセンターで開かれた。ミラノサローネという名前のとおり、ミラノ国際家具見本市(通称ミラノサローネ)の中国版と言える見本市だ。

拡大する中国市場に向けたイタリアブランドの戦略

ミラノサローネを日本ではなく中国で立ち上げた意図について、代表を務めるクラウディオ・ルーティ氏は次のように説明した。「日本とイタリアの関係は、家具取り引きの面ですでに成熟しています。各々のイタリアブランドが日本法人や日本販売代理店を持ち、独自の戦略を打ち出している一方で、中国はイタリア家具産業にとっていまだ未知の市場です」。

日本が第二次大戦後ほどなく世界貿易機関(WTO)に加盟し、さまざまな分野でEUと貿易を重ねてきたのに対して、中国のWTO加盟は2001年。そもそもEUとの貿易交渉の歴史が浅い。また、米国は、中国との関税問題によって家具を含めた貿易が縮小している。イタリア家具産業にとっては中国に輸出する恰好の商機を迎えていると言えそうだ。

▲上海ミラノサローネのオープニングの様子。ミラノサローネ代表のクラウディオ・ルーティ氏、イタリア共和国外務次官イヴァン・スカルファロット氏、ロンバルディア州知事のアッティリオ・フォンタナ氏、イタリア貿易促進機構プレジデントのカルロ・フェロ氏らが駆け付けた。

「AD」「DOMUS」「Interni」「Wallpaper」「Elle Décor」「IDEAT」といったデザイン誌が軒並み中国版を刊行して、欧米の家具ブランドを紹介してきたという背景もある。これらを通じて、イタリアのデザインに対する中国人の理解は着実に高まってきているのだ。「そのなかで多くのブランドが使節団のように結束し、リビングルームからキッチン、バスルームまで、イタリア製家具を360度紹介する機会を設けることが大切だと考えています」とルーティ氏は語った。今年4回目となった上海ミラサローネでは、イタリアブランドの出展は127社にのぼった。

▲ミノッティ上海店の内観

と言っても、ブランドによって上海ミラノサローネの捉え方には違いがあるようだ。モルテーニやミノッティといった上海に信頼のおける代理店を持つブランドは、エンドユーザーへのプレゼンテーションの機会という意味合いが強かった。ミノッティは2015年にすでに世界最大の広さ1,300㎡を誇る店舗を市内にオープンさせている。

上海の街は今、銀座や表参道に負けないほど目抜き通りに世界の高級ファッションブランドの大型店舗が軒を連ね、一目でわかるほどグローバル化している。しかし、ファッションに比べて、生活様式と密接につながる家具は、すぐに西洋式のものが受け入れられるかというとそうでもないようだ。

▲上海ミラノサローネ会場でのモルテーニのブース

そのためか、日本ではすでに認知度の高いブランドでも、上海ミラサローネでは中国市場への目配りが感じられる展示が目立った。例えば、モルテーニは上海に拠点を置く建築デザイン事務所ネリ&フーがデザインした寝具シリーズ「Twelve A.M. COLLECTION」を大々的に披露。世界的に評価の高いネリ&フーは、多くの中国人にとっても誇りと言える存在だ。そんな彼らのデザインによって、イタリア製家具を抵抗なく受け入れてもらいたいという思惑がモルテーニにはあるのだろう。

ネリ&フーのデザインしたベッドの、ヘッドボードから両脇にかけて三方を取り囲むスタイルは、古典絵画にも多く描かれる、中国の古典的な寝具に原型を見ることができる。中国の知識人であれば、その着想源にすぐ気づくはずだ。こうした中国の伝統の文脈を残しつつ、世界で受け入れられるベッドのデザインに翻訳した「Twelve A.M. COLLECTION」は、エル・デコインターナショナルデザインアワード中国版の家具部門も受賞した。

▲ネリ&フーのデザインによる、モルテーニ「Twelve A.M. Collection」/p>

また、アルテミデの中国担当者もネリ&フーの照明器具「nh」コレクションが、中国で好評だったと語った。イタリアブランドが中国人の暮らしに寄り添う家具をつくり出すうえで、現地を拠点とするデザイナーの起用は今後も重要になる。アルテミデの担当者は、「上海ミラサローネはネリ&フーに続く中国のデザイナーと出会う場にしたい」とも漏らしていた。

中国市場への進出を狙うブランドにとって、この考え方は各社共通だろう。そこで実施されたのが、若い才能との出会いを後押しするための、「ミラノサローネサテリテ」の上海版と言える「上海サローネサテリテ」である。

上海サテリテに見る若手デザイナーの現状

上海サテリテの応募対象は、中国の大学生に限られている。今年は北京工科大学、香港理工大学などから来年卒業する53組の学生たちの作品が、上海ミラノサローネと同じ会場内に展示された。その中から、11人の国際審査委員が選んだ上位3作品を紹介したい。

1位を受賞したシジエ・チェンさんの「W stool」は、レザーにトタン板のような波型加工を施し、筒状に丸めて自立させたスツールだ。レザーはバッグなどのレザー製品をつくる際に出る端切れを用いている。波型の原理を最大限に生かすことで、最小限のレザーでスツールに必要な強度を保つことができるという。多くの審査委員が不要のレザーを用いた点を高く評価し、さっそく上海ミラノサローネに出展していたレザーファーニチャーブランドから問い合わせがきているそうだ。

▲1位を獲得したシジエ・チェン(Shije Chen)さんによる「W stool」

2位を受賞したふたり組のホンチャン・ジュによる「Trade」は、竿秤にヒントを得て、竿状のスチールの上をスライドさせることで調光できる照明器具。重さを計るのではなく、光を“計る”という新鮮なアプローチの作品だ。

3位のジャオユ・ドングさんによる「Fan」は、中国の竹工芸と先端技術を組み合わせた、昔の扇風機の姿を彷彿とさせるような照明器具。クラフト的な装飾品になりがちな竹編み細工を、現代の実用品に応用した試みが高く評価された。照明シェードは竹編みが盛んな四川省の工場で製作され、タッチボタンは指ひとつで電源のオンオフができるように考えられている。また、電磁誘導式でワイヤレス充電ができるという実用性も兼ね備えた。照明をつけたときの竹編みの影も美しい仕上がりとなっていた。

▲ホンチャン・ジュ(Hongchan Xu)の「Trade」

いずれも22歳の学生ならではの、これまでのプロダクトのタイポロジーにとらわれない新鮮なアイデアが目立った。また、製作工場を見つけ、精度の高い作品に仕上げていた点は、キュレーターのマルヴァ・グリフィン・ウィルチャー、パトリシア・ウルキオラ、ロドルフォ・ドルドーニら審査員も高く評価した。これらの受賞作品は、2020年4月のミラノサローネサテリテで世界各国の若手デザイナーの作品とともに出展されるという。

今、中国のデザイン大学の多くはMITやロイヤル・カレッジ・オブ・アートから客員教授を招くなどしてグローバルな力を伸ばそうとしているが、取材中、学生たちの英語力にはかなりの不安が残った。将来、デザイナーとして海外企業との仕事を望むのであれば、自分のアイデアだけでも英語で伝える力を持つべきだろう。End

▲ジャオユ・ドング(XiaoYu Dong)さんによる「Fan」