NEWS | アート / サイエンス
2019.11.05 17:09
20世紀を代表する画家 ジャクソン・ポロックはいつも、床に寝かせたキャンバスに対して、塗料を缶や刷毛から一直線に滴らす技法を用いている。彼の技法は「ドリッピング」とよばれることが多いが、しかし、これは流体力学的に言えば少し間違った表現で、キャンバス上で流体を不連続なしずくを垂らすことを意味するのだという。
この技法の謎を解き明かそうと、米ブラウン大学工学部の研究チームがある発表を行った。それは、ポロックが空中から塗料を滴らせるときに、「coiling instability」と呼ばれる現象を意図的に避けているように見える、ということだそうだ。
たとえば、トーストに蜂蜜をかけるとよくわかるだろう。つまり、粘性のある液体を注ぐと、表面全体に広がる前に、ロープがぐるぐる巻きになるように、あるところで液体が溜まって積み重なりやすいということだ。
実際、ポロックはしずくではなく、キャンバス全体に切れ目のない細い線を描くことを好んだ。そこで、作業中のビデオを分析し、塗料を滴らせるときに彼がどれぐらいの速さで腕を振り、キャンバスからどれだけ離れていたかを測定。テータを収集したのち、実験装置で彼の技法を再現した。
そこでわかったのは、彼の手の速度、キャンバスからの距離、そして塗料の粘度が「coiling instability」を避けるコツだったということだ。彼の「ドリッピング」とは、だらだらと塗料を垂らすのではなく、むしろ非常に高速で手を動かすことだったのだ。