クリエイティブと人との接点を求めて、「体感」を伴う新たなフォトフェスティバルへ
ソニーのデザイナーが、各分野の豊富な知見や知識がある人のもとを訪ね、多様な思考に触れつつ、学びを得る「Perspectives」。今回、デザイン部門長の長谷川 豊さんが向かったのは、体験型ブースを出展している「浅間国際フォトフェスティバル2019 PHOTO MIYOTA」(以下PHOTO MIYOTA)。同フェスティバルの副委員長を務めるアマナ代表取締役社長 兼 アマナグループCEOの進藤博信さんを訪ねた。
眺めるだけではないフォトフェスティバルとは?
建物の壁面に連なる巨大なポートレート。大きな布にプリントされ、風にたなびく風景写真。浅間山を望む約縦12m ×横9mの大型展示は、「顔出し」することで来場者が写真の一部になれる作品だ。
長野県北佐久郡御代田町で、今年9月14日から11月10日に開催中の「PHOTO MIYOTA」。昨年のプレ開催には51日間の会期に約2万人が訪れた。本格始動となった今年は、国内外から55組の写真家が参加。会場も軽井沢や北軽井沢など、浅間山麓エリア一帯へと拡張している。
御代田駅からほど近いメイン会場は、かつてこの街で美術館として時を重ねてきた場所。緑のなかを散策し、屋内外でアート写真に触れる体験は、美術館などで開催される写真展とは、大きく異なっている。
PHOTO MIYOTAを御代田町と共同主催するアマナの進藤博信さんは、「写真を画面の中で眺めるのではなく、体を動かして、体験してほしい。視覚以外のセンサーもフルに活用して、非日常の場でアート写真を楽しむフェスティバルです」と解説。昨年は進藤さんから会場に招かれ、今年は出展者として参加したソニーの長谷川 豊さんは、「前年より体験型の作品が多くなっていて、アート写真に向き合いやすいと感じました」と返した。
写真を体験することの先に、進藤さんが馳せるのは「写真を読む」こと。「『読む』とは、家族やパートナーらと、ここで得た、写真を通じた体験について語ること。1枚の写真を読み解く行為は、かけがえのない、豊かな時間につながっていくはずです」と語る。
最新技術によってアート写真の一部に
体験を重視したフォトフェスティバルで、各作品とどのように向き合えばよいかは、それぞれ趣向を凝らした展示手法によって示されている。
メイン会場の一角にあるソニーの「YOU and BAU」は、写真家の鈴木 崇さんによる作品「BAU」とコラボした参加型ブース。来場者はランダムに登場するBAU(建築、構造の意)の一部となり、その場でプリントされた写真を持ち帰ることができる。この展示は、どんな色の背景でも人物を自動で切り抜き、別映像とリアルタイムに合成する、同社のCGデジタル合成機能技術を用いたもの。多様な色や形のスポンジを建築物に見立て、視覚の変化をテーマに制作されたBAUと人が組み合わさることで、さらなる視覚の変化をもたらす意図がある。まさにフォトフェスティバルのテーマである「TRANSFORM(変化・変容)」の体験と言える。
PHOTO MIYOTAへのソニーの参加のきっかけは、2018年のミラノデザインウィークに出展した「Hidden Senses」を、進藤さんが体験したことにある。写真でもなくテクノロジーでもなく、それらを通じてもたらされる体験を重視するという共通点を見出した進藤さんのオファーに、長谷川さんが応えたというわけだ。
「われわれが目指すのは『五感満足』。人の五感を震わせることが、アマナが日々取り組んでいるビジュアルコミュニケーションの究極の姿です。世界中から御代田に写真ファンがやって来て、町が賑わう。そんな未来を、今後10年で実現していけたら」と進藤さん。PHOTO MIYOTAもまた五感満足という考えの延長上にある。
「そういった思想を後押ししたいという思いも、私たちが参加を決めた理由のひとつです。思想や文化といった企業姿勢を、自ら発信して伝える時代。ソニーも、『クリエイティビティとテクノロジーの力で世界を感動で満たす』ことを会社の存在意義としています」と長谷川さん。「近年、ソニーのデザインは、ものや環境を介して、人との接点や関係性をどのように生み出すかにフォーカスしています」と続ける。
ミラノデザインウィークやPHOTO MIYOTAなどへの参加は、そういった接点を広く、多くの人々に向けて、直接コミュニケーションするため。人とテクノロジーの関係性をクリエイティブの力で構築しようとするソニーデザインが、体験を伴って伝える場をさらに増やそうとしている。(文/廣川淳哉)
もうひとつの「Perspectives」ストーリーでは、進藤博信さんとのお話をきっかけに、クリエイティブと人との接点について長谷川 豊さんが自らの考えを語ります。Sony Design Websiteをご覧ください。