メゾン・エ・オブジェ・パリ2019年9月展レポート
素材の活用から「働く」空間のトレンドまで(前編)

インテリアデザイン、ライフスタイル業界の国際展示会「メゾン・エ・オブジェ・パリ」。その2019年9月展が、去る9月6日から10日にかけてパリ・ノール・ヴィルパント見本市会場にて開催された。

出展者数は2,762、実来場者数は76,862にのぼり、前回を上回る参加者数を記録。最新のクリエーションを展示した3,137ブランドのうち863ブランドが新規出展、またその61%を69カ国からなるフランス国外出展者が占めるなど、本展示会の「国際見本市」としての影響力はより顕著になりつつある。

参加者の内訳を国別で見てみると、来場者では上からベルギー、イタリア、ドイツ、オランダ、イギリスに。出展者では上からイタリア、ドイツ、オランダ、イギリス、ベルギーであったそうだ(フランスを除く)。

本記事では本展のメインテーマである「WORK!」をはじめとした4つのメガトレンドの各シーンを含め、会場の模様を紹介する。

▲パリ・ノール・ヴィルパント見本市会場敷地入り口

「WORK!」コーナーを擁するホールの入り口では、カナダのデザイン会社「molo design」の特徴あるブースが来場者の目を引く。同社が手がけるプロダクトは、軽量なポリエチレン繊維製素材の折りによって、シチュエーションに合わせて誰でもさまざまに形状を変えることができる。ミクロレベルに細かくしたアルミのコーティングを施したものもあり、そこでは光の反射が生き生きと表情をもつなど、多様な演出を可能にする。

©︎molo


▲独自の素材加工と折りによって、柔軟に形状を変えうる空間とプロダクト。埋め込み動画はランプシェードの様子。




日本の伝統工芸を独自のキュレーションで海外に提案する「Bespoke Materials Japan」の松浦隆展氏(ビジョンマーケティング)は、メゾン・エ・オブジェをハイエンド・ラグジュアリー層への販路開拓の好機と捉える。

「Bespoke Materials Japanは、日本の組子やガラス、石材や木材の美しい加工技術を『中間素材』として海外に発信する試みです。伝統的な技巧を具体的にどのようにラグジュアリーな空間やプロダクトに活かすか。それはマーケットが決めればいいことで、そのための審美眼や資本力を持った人々—プライベートジェットやヨットを持つようなウルトラ・ハイエンド層—にリーチするネットワークづくりを可能にするのがメゾン・エ・オブジェなのです」(松浦氏)。

▲土佐組子や丹後ちりめんなど日本の8社の伝統と革新の技術を紹介するBespoke Materials Japan。

インテリア・ライフスタイル業界が扱う商材は食器や調理器具、文具、ファッション、家具、雑貨など幅広い。7つのホールに展開される広大なブース群のなかで2箇所に渡って姿を見せた日本のデザイン会社は、デザインオフィスnendoだけではないだろうか。

1箇所目は「スワロフスキー」。1月に発表されたコラボレーションアイテム、「Atelier Swarovski Home」シリーズの「soft pond」が展示されていた。世界的なクラスタルブランドだけあり、そのブースも豪華で大規模だ。

▲「Atelier Swarovski Home」シリーズ「soft pond」

2箇所目はアプリ「カカオトーク」で有名な韓国のインターネットサービス会社 「カカオ」のブース。展示会開催と同時期に発表されたIoT家電コレクション「Kakao Friends HomeKit」のデザインをnendoは手がけている。加湿器、照明、目覚まし時計、空気清浄機、センサー、体重計、温度計の7種類にはそれぞれの機能を端的かつチャーミングに表したアイコンがそのまま形状として施されている。カカオ社の人気キャラクター「カカオフレンズ」と合わせて楽しむこともできる、テクノロジーを前に出しすぎない、親しみやすさの演出は、ライフスタイル展との親和性が高いデザインとも言えるだろう。

▲「Kakao Friends HomeKit」

技術の結晶、そのアピールではなく、生活に馴染むことに重きを置かれた家電という点では、バング&オルフセンやVifaをはじめとした音響機器も近年では注目のジャンルだろう。スウェーデンの音響メーカー「TRANSPARENT SOUND」が展開するのは、ミニマルで静謐、ものによっては無骨とも言える彫刻的なスピーカーだ。レギュラー製品として展開されているガラス面の透明スピーカー、鉄製や木製のスピーカーに加え、ブースでは石彫のような質感で覆われたプロトタイプも展示。展示空間やリーフレットまで統一された世界観には、ブランドとしての意識の高さが感じられた。

▲TRANSPARENT SOUNDのブース、プロダクト、リーフレット

デンマークのメーカー「KREAFUNK」にしても、レザーと組み合わせた製品やテーブルに馴染む置物としての演出など、必ずしも未来感を前に出さない家電というジャンルを見ることができる。

▲KREAFUNKの音響プロダクト群

“デザイナー・オブ・ザ・イヤー”ローラ・ゴンザレスとピエール・エルメ

第7ホールの入り口付近に居を構える、明らかに他の出展ブースと異なる佇まいのスペース。それは今回のメゾン・エ・オブジェのために設えられた特別仕様の「ピエール・エルメ」のレストランだ。

今年のデザイナー・オブ・ザ・イヤーを受賞した建築家ローラ・ゴンザレス。クラシックとモダンを高度に調和させる彼女の特別ブースに加え、そのコラボレーターとしてピエール・エルメが参画。店舗の空間、内装デザインも彼女が手がけた。

「ここで展示しているコレクションというのは、今回のメゾン・エ・オブジェのためにデザインしたというものではなく、建築家でありインテリアデザイナーでもある私のライフワークとして、2年前から取り掛かり始めた最初の家具コレクションなんです。ガラスや陶器の職人たちと一緒に取り組んできました。
 ピエール・エルメとのコラボレーションは以前にも経験があり、シャンゼリゼ通りの『ロクシタン×ピエール・エルメ』ショップ同様、今回もシャンデリアや壁のクロスまで、職人やテキスタイルデザイナーとともにデザインを行いました。フランスの職人がつくるものは高価ですから、これらはマス向けのプロダクトではなく限定品という括りになりますね。ただ、アートピースではない。優れた素材とプロポーションが組み合わさることで『使いやすさ』がきちんと実現されているのですから」(ローラ・ゴンザレス)。

©lauragonzalez.fr(一番下のみ)

ピエール・エルメ氏はローラ氏をして「常にデザインを楽しんでいる人物」という。

「ローラのデザインで出展することが決まったのが、開催の8ヶ月くらい前でしたでしょうか。これだけ大規模かつ短い期間のイベントへの出展は今まで経験したことがなかったので、とてもチャレンジングなことだと思いました。ただ、挑戦を重ねることでしか新たなクリエイションは生まれません。それはデザイナーにも言えることです。手法の試行錯誤や再発明をしようとすること、細部への注意を怠らないなど。われわれが青山にお店を出すというときに幾度も新しいアイデアを提案してくださった片山正通さんにもその姿勢を見ました。今回の出展を機に、結果として新しいフォーマットを考えることができたと思っています」(ピエール・エルメ)。

▲ピエール・エルメ氏

レポート後編では、メゾン・エ・オブジェ・パリ2019年9月展のメインテーマ「WORK!」をはじめとするトレンド展示について紹介する。End